日本で「がん」が急増している理由は?り患疾患・死亡率について世界中の国との比較でわかったこと

ここ数年、「日本ではがんが急増している」といった話を耳にすることが増えました。
「日本だけが欧米よりもがん患者や死亡者が増えている」「日本の食生活が原因ではないか」など、さまざまな情報が飛び交っています。中には、こうした不安をあおることで健康食品や書籍を売りつけるような商業的な情報もあり、混乱している人も少なくありません。

では、本当に日本だけががんにかかる人や亡くなる人が増えているのでしょうか。
また、もし増えているのだとしたら、その原因は何なのでしょうか。
ここでは、国際的な統計データをもとに、日本の「がんの現状」を整理してみましょう。

がん患者数・死亡者数の推移 ― 確かに数は増えている

がん患者数・死亡者数の推移 ― 確かに数は増えている

国立がん研究センターの統計を見てみると、1975年から2000年代初頭にかけて、日本のがん罹患者数・死亡者数はともに右肩上がりで増加しています。
単純に「がんになった人の数」や「がんで亡くなった人の数」を見ると、確かに増えているように見えます。

しかし、これは果たして日本だけの現象でしょうか?

世界でも「がん」は増えている

オリンパス株式会社のウェブサイトが紹介している、国際がん研究機関(IARC)のデータを見てみると、2002年から2018年の間に、世界185か国のがん罹患者数と死亡者数はいずれも増加しています。
特に罹患者数は約20年間でほぼ2倍に増えており、がんの増加は日本特有の問題ではなく、世界的な傾向であることがわかります。

つまり、「日本だけでがんが増えている」という認識は誤りです。
世界中でがんの患者数は増加しており、背景には高齢化や生活習慣の変化、検査技術の進歩などが関係しています。

日本でがんが増えている最大の理由 ― 「高齢化」

日本でがんが増えている最大の理由 ― 「高齢化」

それでは、日本で特にがんが多く見られるのはなぜでしょうか。
専門家の多くが指摘している最大の要因は、「高齢化」です。

日本は世界有数の長寿国であり、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は30%近くに達しています。
がんは加齢とともに発症リスクが高まる病気です。細胞分裂の際にDNAの複製エラーが蓄積し、また免疫力が低下することで異常な細胞を排除しにくくなります。老化に伴う慢性的な炎症もがん発生を促進する要因とされています。

つまり、がんはある意味で「老化現象の一部」とも言える病気なのです。
実際に、年齢別のがん罹患率を見ると、60歳を超えたあたりから急激に増加し、特に男性でその傾向が顕著に表れています。

「本当に増えているのか」を判断するカギ ― 年齢調整率

ただし、単に罹患数が増えているからといって、「がんになりやすい国になった」とは限りません。
人口全体に占める高齢者の割合が時代によって大きく異なるため、高齢化の影響を取り除いて比較する必要があります。
このときに用いられるのが「年齢調整罹患率」および「年齢調整死亡率」です。

国立がん研究センターの報告によると、日本の年齢調整罹患率は1980年代から1990年代半ばにかけて一時的に上昇しましたが、その後は2000年代以降ほぼ横ばい、近年はむしろ減少傾向にあります。
また、年齢調整死亡率に関しては、がん治療の進歩や早期発見の増加により、ゆるやかに低下していることが確認されています。

つまり、「がんの発生率」そのものは近年増えていないどころか、治療成績の向上によって死亡率は下がっているのです。

日本と世界の比較 ― 欧米と同様に減少傾向

2024年に国際的な医学誌『JAMA Oncology(ジャマ・オンコロジー)』に報告された国際共同研究では、世界204か国のがん統計が分析されました。
その結果、2010年から2019年にかけての年齢調整罹患率を見ると、日本は欧米諸国と同様に減少傾向にありました。
また、年齢調整死亡率についても、日本はアメリカなどと比べてむしろ減少率が高く、年間で1%以上の改善が見られたと報告されています。

つまり、「日本だけががんの国」になっているわけではなく、世界全体で見ても日本は「がんと上手に向き合っている国」と言えます。

医療技術の進歩と生活習慣の変化

医療技術の進歩と生活習慣の変化

がんによる死亡率が低下している背景には、医療技術の進歩もあります。
近年では、内視鏡検査やCTスキャン、PET検査などの画像診断技術の発達により、がんがより早期に見つかるようになりました。
また、免疫療法や分子標的薬など、新しい治療法が確立され、特に肺がん・大腸がん・胃がんなどで生存率が改善しています。

一方で、食生活や生活習慣の欧米化も一部のがんの増加に影響しています。
例えば、大腸がんは肉や脂質の摂取増加と関連があるとされ、乳がんや前立腺がんも生活習慣の変化に影響を受けることが知られています。
しかし、これらは「急増の主因」ではなく、あくまで複数の要因のひとつにすぎません。

結論 ― 「がんが増えている」という誤解

ここまでのデータを整理すると、次のようにまとめられます。

  1. 日本でがんの罹患者数・死亡者数は「数」としては増えている。
  2. しかしその主な理由は「高齢化」であり、人口構成の変化によるもの。
  3. 年齢調整罹患率・死亡率では、むしろ減少傾向にある。
  4. 医療の進歩により、がんの治療成績は世界的に見ても向上している。
  5. 日本だけががんにかかりやすい、あるいは医療水準が低いということはない。

したがって、「日本でがんが急増している」というのは、事実の一部だけを切り取った誤解と言えるでしょう。
食生活や環境が急に悪化したわけではなく、むしろ医療の発展と長寿化の結果として、がんという病気がより「見える化」されたと捉えることができます。

がんは決して特別な病気ではなく、長く生きるほど誰にでも起こりうる病気です。
日本は世界の中でも早期発見・早期治療の体制が整っており、がんと共に生きる社会が現実のものとなりつつあります。
「がんが増えている」という言葉に過度に不安を感じる必要はありません。大切なのは、正しい情報を知り、自分自身の健康を長期的に見つめることなのです。