
――見えない「こころの痛み」に目を向けて――
今回は少し重いテーマですが、とても大切な話をしたいと思います。
それは「がんと自殺」の関係についてです。
聞くだけで胸が痛くなる方もいるかもしれませんが、がんという病気を理解し、患者さんを支えるうえで避けて通れないテーマです。よろしければ、最後までお読みください。
がんは体にできる病気ですが、実際には「心の病」でもあります。
診断を受けた瞬間から、多くの人が不安や恐怖に襲われます。
「これからどうなるのだろう」「治るのだろうか」「家族に迷惑をかけてしまうかもしれない」――そうした思いが、日々の生活を支配してしまうこともあります。
本来であれば、こうした「こころのケア」も治療の一部としてとても大切なのですが、現実の医療現場では、どうしても「がんそのものの治療」に意識が向かいがちです。
手術や薬の治療、検査の結果などが優先され、患者さんの気持ちのケアは後回しになってしまうことも少なくありません。
患者さん自身も、「弱音を吐くのはよくない」「みんなもっと頑張っている」と、自分の辛さを抱え込んでしまうことがあります。
誰に相談していいかわからず、気持ちをため込んでしまう人も多いのです。
その結果、追い詰められた心が限界を迎えてしまうことがあります。
実際に、がん患者さんは、がんのない人と比べて自殺する人の割合が高いことがわかっています。
では、どのくらい高いのでしょうか。
2022年、海外の医学誌に世界中の研究をまとめた報告が発表されました。
およそ2,000万人以上のがん患者さんのデータを分析したところ、がん患者さんの自殺率は、一般の人と比べて約1.85倍(85%高い)という結果が出たのです。
この数字は、がんという病気が体だけでなく、心にも大きな影響を与えていることを示しています。

研究によると、特に自殺の危険が高かったのは、次のような特徴をもつ方でした。
がんを告げられた直後というのは、誰にとっても非常につらい時期です。
現実を受け止めきれず、これからの人生が真っ暗に感じてしまう方もいます。
また、支えてくれる家族が近くにいない場合、孤独感が強まり、心のバランスを崩しやすくなるのです。
さらに、がんの種類によっても、自殺のリスクには差がありました。
研究では、次のような結果が報告されています。
これらのがんは、治りにくいといわれることが多く、治療も体への負担が大きい場合があります。
そのため、「もう希望が持てない」「この苦しみがいつまで続くのか」と感じやすいのかもしれません。
がん患者さんの自殺を減らすためには、こころのケアが欠かせません。
治療や検査だけでなく、「気持ちを支える」ことが、患者さんの命を守ることにもつながります。
まず、ひとりで抱え込まないことが何より大切です。
不安や悲しみ、怒り、恐怖――どんな気持ちでもかまいません。
信頼できる家族や友人に話してみてください。
「話すだけで心が少し軽くなった」という人は少なくありません。
もし、身近に話せる人がいないと感じたら、ノートに気持ちを書き出すのもおすすめです。
自分の中の混乱した気持ちを整理することができ、少し客観的に自分を見つめられるようになります。
また、瞑想、深呼吸、ヨガ、音楽、自然の中での散歩なども、気分を落ち着けるのに役立ちます。
特別なことをする必要はありません。
「自分がほっとできる時間」を、毎日の中で少しずつ作ることが大切です。

それでも気持ちが落ち着かず、夜眠れない、何をしても楽しくない、涙が止まらない――
そんなときは、我慢せずに専門家に相談してください。
主治医や看護師に「最近気持ちがつらい」と伝えるだけでも大丈夫です。
多くの病院には、心理士や精神科・心療内科の専門医がいて、話を聞いてくれます。
薬やカウンセリングによって、気分が少しずつ安定することもあります。
また、全国には「がん相談支援センター」という無料の相談窓口があります。
これは、がんに関するどんな悩みでも受け付けてくれる公的な窓口で、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されています。
「治療のこと」「お金のこと」「家族との関係」など、どんなことでも相談できます。
電話で話したい人には、「日本対がん協会」のがん相談ホットラインもおすすめです。
専門の相談員が、無料で話を聞いてくれます。
詳しくは日本対がん協会のホームページをご覧ください。
がんは、体だけでなく、心にも深く影響を与える病気です。
とくに、すい臓がんや食道がんなど予後の厳しい病気では、自殺のリスクが高いことがわかっています。
しかし、「話す」「相談する」「頼る」ことで、そのリスクを減らすことはできます。
医療者も、もっと患者さんの心の痛みに目を向ける必要があります。
そして、私たち一人ひとりが、身近ながん患者さんに「どうしていますか」「話を聞かせてください」と声をかけることが、命を守る大切な支えになるのです。
がんと向き合う中で、心が苦しくなったとき――
「ひとりで抱えなくていい」
この言葉を、ぜひ思い出してください。
支えてくれる人は、必ずどこかにいます。