腰椎すべり症の話

私たちの体を支える「背骨(脊柱)」は、
まるで家の柱のように、体の中心で大切な役割を果たしています。

立つ・歩く・座るといった日常の動作は、
すべて背骨のしなやかな働きに支えられています。

しかし、この背骨の構造にゆがみやズレが生じると、腰痛や足のしびれなど、
さまざまな症状が現れることがあります。

その代表的な疾患が

「腰椎すべり症(ようついすべりしょう)」


です。

今回は、背骨の基本構造から腰椎すべり症の
原因・症状・治療まで、やさしく解説します。

■ 背骨の構造

■ 背骨の構造

人間の背骨は、全部で26個の骨(椎骨)からできています。
首から腰、そして骨盤にかけて連なり、体をまっすぐに
支えるとともに、内部を通る神経を守る大切な役割を担っています。

背骨は上から順に次のように分類されます。

  • 頸椎(けいつい):7個
     首の部分にあり、前方にゆるやかにカーブしています(前弯)。
    頭の重みを支えつつ、前後左右に動かすことができます。
  • 胸椎(きょうつい):12個
     背中の部分にあり、後ろに向かって少し弯曲しています(後弯)。
    肋骨とつながり、胸郭を形成しています。
  • 腰椎(ようつい):5個
     腰の部分にあり、再び前にカーブしています(前弯)。
    体の重みを受け止め、最も負担のかかる部位です。
  • 仙椎(せんつい):1個(5つの椎骨が癒合)
     骨盤の一部として、下半身を支える土台の役割をしています。
    後ろに少しカーブしています。
  • 尾骨(びこつ):1個
     背骨の一番下にある小さな骨で、退化したしっぽの名残といわれています。

背骨の全体を見ると、S字状のカーブを描いています。
このカーブがクッションのように働き、衝撃を吸収しながら姿勢を安定させています。

■ 背骨を構成する部品たち

1つひとつの椎骨には、次のような部分があります。

  • 椎体(ついたい):前方の大きな部分で、体重を支える主要な骨。
  • 椎弓(ついきゅう):椎体の後ろにあり、神経を守る弓状の骨。
  • 棘突起(きょくとっき):背中を触ると感じる骨の出っ張り。
  • 横突起(おうとっき):左右に伸びた突起で、筋肉や靱帯の付着部。
  • 関節突起(上関節突起・下関節突起):隣の椎骨と関節を作る部分。

これらが積み重なって脊柱管(せきちゅうかん)というトンネルを形成し、
その中を

脊髄(せきずい)

と呼ばれる太い神経の束が通っています。

脊髄は腰のあたりで枝分かれし、

「馬尾神経(ばびしんけい)」

となって足のほうへ伸びていきます。

脊髄から分かれた神経は、左右の

椎間孔(ついかんこう)

という隙間から出て、全身へ信号を送ります。

この神経が圧迫されると、痛みやしびれが起こります。

■ 腰椎すべり症とは

腰椎すべり症とは、その名の通り

「腰の骨(腰椎)がずれてしまう病気」

です。

特に第4腰椎と第5腰椎の間、または
第5腰椎と仙骨の間で起こることが多いです。

ずれ方には、いくつかのタイプがあります。

  • 加齢による変性(すべり)
  • 骨の疲労骨折による分離(分離すべり症)
  • 先天的な形の異常

すべりが起こると、背骨の中を通る神経が引っ張られたり、
圧迫されたりして、さまざまな症状を引き起こします。

■ 腰椎すべり症で出る主な症状

  1. 腰痛
     骨がずれて関節や筋肉に負担がかかることで痛みが出ます。
     特に、立ち上がるときや長時間立っているときに痛みが強くなることがあります。
  2. 下肢のしびれ・痛み(坐骨神経痛)
     ずれによって馬尾神経や神経根が圧迫されると、足のしびれや痛みが現れます。
     これは腰痛とは異なり、太もも・ふくらはぎ・足先まで電気が走るような感覚が特徴的です。
  3. 筋力低下
     神経の圧迫が強くなると、足首を持ち上げる力が弱くなり、
    つまずきやすくなることがあります。
  4. 間欠性跛行(かんけつせいはこう)
     しばらく歩くと足がしびれたり重くなり、休むと楽になる症状。
    脊柱管狭窄を伴うすべり症で見られます。

■ 腰椎すべり症の診断

診断は主にX線(レントゲン)で行います。
立った状態で撮影することで、骨のずれの程度がわかります。

必要に応じてMRICTを用い、神経の圧迫の程度や、
椎間板の状態、すべりの原因などを詳しく調べます。

■ 腰椎すべり症の治療

■ 腰椎すべり症の治療

● 基本は保存的治療(手術しない方法)

腰椎すべり症の多くは、骨がずれたままでも
日常生活に支障がない場合があります。

大切なのは、「骨のずれ=重症」ではないということです。
治療の基本は、痛みをやわらげ、筋肉を鍛えて腰を安定させることです。

① 腰痛に対する治療

・消炎鎮痛剤(内服薬、塗り薬、貼り薬、坐薬)
・局所注射(トリガーポイント注射など)
・温熱療法(ホットパック、赤外線など)
・腰痛体操、ストレッチ、姿勢改善

② 坐骨神経痛に対する治療

・神経ブロック注射
・腰椎けん引療法
・痛みを抑える内服薬(ビタミンB群、神経痛緩和薬など)

これらの治療で、多くの患者さんは数か月で症状が改善します。

● 手術が必要になる場合

次のような場合には、手術による治療が検討されます。

  1. 数か月の保存療法でも腰痛やしびれが軽快しない
  2. 足の筋力低下や歩行障害が進行している
  3. 神経の圧迫が強く、日常生活に支障をきたしている

手術の目的は、神経の圧迫を取り除き、背骨を安定させることです。
代表的な方法が腰椎椎体間固定術です。
これは、ずれた椎骨の間に人工のスペーサーや
金属プレートを入れて固定する手術で、神経の圧迫を解除し、再発を防ぎます。

■ 治療のポイントと心構え

  1. 骨のずれがあっても、必ずしも痛みが強いわけではありません。
  2. 逆に、痛みが強くても画像上のずれが軽いこともあります。
  3. すべり症による腰痛は永続的ではなく、適切な治療で軽快することが多いです。
  4. 足のしびれや坐骨神経痛の強さは、神経圧迫の程度と関係します。
  5. 数か月の保存療法でも改善しない場合や、筋力低下がある場合には手術が必要です。

■ まとめ

■ まとめ
  • 背骨は頸椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾骨からなり、S字カーブで体を支える構造。
  • 腰椎すべり症は、主に第4・第5腰椎の間で起こる骨のズレ。
  • 腰痛、足のしびれ、坐骨神経痛などが主な症状。
  • 治療はまず保存療法から始め、必要に応じて手術を検討。
  • 骨のズレそのものよりも、神経への影響の有無が治療判断の鍵となる。

腰椎すべり症は

「老化だから仕方ない」

と諦める必要はありません。
適切なリハビリと治療で、

痛みのない生活


を取り戻すことは十分可能です。

無理をせず、早めに整形外科で
相談することが、快適な日常への第一歩になります。