老化と癌:高齢者にがんが急増する3つの理由

日本は世界でも有数の長寿国です。平均寿命は男女ともに80歳を超え、人生100年時代が現実となりつつあります。長寿は大変喜ばしいことですが、それと同時に「がん」が身近な病気になっています。
事実、日本ではがんは死亡原因の第1位であり、生涯で2人に1人はがんになると言われています。特に60歳を過ぎると、がんの発症率は急激に上昇します。

では、なぜ年齢を重ねるとがんになりやすくなるのでしょうか。
その背景には、私たちの体に起こる「老化」という自然な現象が関係しています。今回は、高齢者にがんが急増する3つの主な理由をやさしく解説します。

1.DNAの複製エラーが蓄積する

1.DNAの複製エラーが蓄積する

体を作り替える“設計図コピーのくり返し”

私たちの体は、およそ37兆個もの細胞からできています。これらの細胞は、毎日絶えず入れ替わりながら働いています。細胞が分裂して新しい細胞をつくる際、DNAという“設計図”がコピーされるのですが、この過程でごく低い確率でミス(複製エラー)が生じます。

若い時であれば、細胞にはミスを修正する優れた仕組みが備わっており、多くのエラーは問題なく修復されます。しかし、長い年月の間に細胞分裂が繰り返されることで、少しずつ修復しきれないエラーが蓄積していきます。

さらに、生活している限り、私たちは

  • 紫外線
  • 食べ物に含まれる微量の発がん物質
  • タバコの煙
  • 化学物質
  • 放射線

など、DNAを傷つける環境に日々さらされています。
こうした小さなダメージが長い年月をかけて積み重なることで、がん細胞が発生しやすくなるのです。

例えるなら、コピー機を何十年も使い続けるうちに紙詰まりや印刷のかすれが増えるように、体の中の細胞コピーも少しずつ不具合が溜まっていく、と考えるとわかりやすいかもしれません。

2.免疫機能の低下 ― 体の“見張り番”が弱る

がん細胞を見つけて排除する力が落ちる

私たちの体には、毎日数千個ものがん細胞の“芽”が生まれていると言われています。しかしほとんどの場合、免疫細胞がそれらを素早く見つけ出し、排除しています。この働きがあるから、がんにならずにすんでいるのです。

ところが、免疫機能は年齢とともに低下します。特に、がん細胞を攻撃する役割を持つ「T細胞」と呼ばれる免疫細胞は、40歳を過ぎたころから徐々に減り、60歳を超えると機能が大きく低下してしまいます。

つまり、がん細胞を監視し退治する“見張り番”の力が弱くなるため、がんが発生しやすくなるのです。

さらに年齢を重ねると、

  • 感染症にかかりやすくなる
  • ケガや病気の回復に時間がかかる
  • ワクチンの効果が若い頃より出にくくなる

といった変化が起きます。こうした変化も、免疫機能の低下と深く関わっています。

3.老化細胞が炎症を引き起こす

3.老化細胞が炎症を引き起こす

“老いた細胞”が周囲に悪影響を及ぼす

年齢を重ねると、体の細胞の一部は分裂できなくなり「老化細胞」と呼ばれる状態になります。老化細胞自体は悪いものではなく、本来は増えすぎを防ぐ役割もあります。しかし、老化細胞が体内に蓄積すると問題が生じます。

これらの細胞は、炎症を促す物質を分泌し、周りの細胞や組織に悪影響を与えるのです。この状態は「慢性炎症(まんせいえんしょう)」とも呼ばれ、がんだけでなく、動脈硬化や認知症、糖尿病など、多くの病気のリスクを高めます。

つまり、細胞の老化が進むほど体が“炎症状態”に近づき、がんが発生しやすくなるというわけです。

がんは「誰でもなる可能性がある病気」

以上が、高齢者にがんが増える主な理由です。
まとめると次の通りです。

  1. DNAの複製エラーが蓄積する
  2. 免疫の力が弱くなる
  3. 老化細胞が炎症を起こす

これらは人間が生きている限り避けられない変化です。
つまり、がんは「特別な人だけがなる病気」ではなく、長生きすると誰にでも起こり得る病気といえます。

日常生活でできる予防のヒント

日常生活でできる予防のヒント

無理なく続けられる「少しずつ」の習慣

がんのリスクを完全にゼロにすることはできませんが、私たちの生活習慣によってリスクを下げることは可能です。

● 食事
 
バランスの良い食事、野菜や果物を意識して取り入れる
● 運動
 
無理のない範囲で体を動かす(散歩や体操など)
適正体重の維持
 
肥満は炎症を引き起こしやすく、がんのリスクに
禁煙
 
喫煙は最も大きながんリスク
十分な睡眠
 
体の修復と免疫回復には睡眠が不可欠
● ストレスの管理
 
心の健康も免疫力に直結

また、がん検診を定期的に受けることも大切です。
早期に見つけることで、治療ができる可能性が大きく高まります。

未来のがん予防 ― 老化細胞を除去する薬に期待

近年、老化細胞を選択的に取り除く「セノリティクス」という新しい研究分野が注目されています。東京大学の中西教授らの研究では、老化細胞が生きるために必要な酵素「GLS-1」に注目し、GLS-1を阻害する薬剤で老化細胞を除去できる可能性を示しています。

もし実用化されれば、

  • 老化に伴う病気の予防・治療
  • がんの発症リスク低減

につながると期待されています。
「老化を治療する時代」が、少しずつ近づいてきているのです。

おわりに ― 年齢はリスク、でも希望もある

年を重ねることは、人生の豊かな時間を積み重ねることです。老化は避けられませんが、科学の力や日々の生活習慣によって、健康寿命を伸ばすことは十分可能です。

がんは決して絶望の病ではありません。
今や多くのがんは、早期発見と適切な治療によって治療が期待できます。
そして何より、毎日のちょっとした工夫が、未来の健康につながります。

これからも、正しい知識を持ち、自分らしい健康づくりを続けていきましょう。