がんと認知症:意外な関係とは?

がんと認知症:意外な関係とは?

がんと認知症:意外な関係とは?

がんと認知症:意外な関係とは?

がんと認知症。
どちらも高齢になるほど増える病気であり、多くの方にとって身近な不安のひとつかもしれません。どちらも命や生活に深く関わる重大な病気ですが、「がん」と「認知症」はまったく別のものだと思っていませんか?

実は近年、この二つの病気のあいだに「意外な関係」があることが、いくつかの研究から分かってきました。
それは――がんを経験した人では、認知症になる人が少ない傾向があるというのです。

「がん患者さんは、治療や不安でストレスが多いから、むしろ認知症になりやすいのでは?」
そう感じる人も多いと思います。
ところが、現実はその逆。がんを経験した人の方が、認知症を発症する割合が低いというデータが世界各国で報告されています。
今回は、その不思議な関係について、最新の研究をいくつか紹介しながら考えてみましょう。

がんの人は認知症が少ない?大規模研究の結果

2022年、イギリスの研究チームが「アルツハイマー病研究の専門誌」に発表した報告があります。
これは、イギリス国内で26万人以上が登録されている「UKバイオバンク」という国の健康データを使った、非常に大規模な研究です。

研究では、参加者を「がんを経験した人」と「がんになっていない人」に分けて、約9年間にわたって追跡しました。
その間にどのくらいの人が認知症を発症したかを調べ、年齢や性別などの条件をそろえて比較したところ、興味深い結果が得られました。

それは、がんを経験した人では、認知症になる人が少なかったというものです。
全体としてみると、がんを経験した人はそうでない人に比べて、認知症になる確率がおよそ11%低かったのです。

さらに詳しく見ると、

  • 「アルツハイマー型認知症」は約15%少なく、
  • 「血管性認知症」は約19%少なかった
    という結果が出ています。

また、がんの種類別にみると、男性の前立腺がんでは特にその傾向が強く、認知症のリスクが約3割も低かったというデータが出ています。

他の研究でも同じ傾向が

この結果は一つの研究だけにとどまりません。
過去の複数の研究をまとめて分析した「メタ解析」でも、同じように「がんの人では認知症が少ない」という傾向が確認されています。

その報告によると、がんを経験した人では、全体として認知症の発症リスクが約10%ほど低下していました。
特に、大腸がん・白血病・甲状腺がんなどで、認知症が少ない傾向が見られたといいます。

一方で、「がん」と「認知症」は一見、全く関係のないように思えます。
しかしこうして複数の研究で似たような結果が出ていることを考えると、何らかの共通した理由があるのかもしれません。

治療による影響も関係している?

次に紹介するのは、2020年に報告された乳がんの研究です。
こちらはアメリカの医学誌に掲載されたもので、30万人以上の乳がん患者さんのデータをもとに行われました。

乳がんの治療には「ホルモン療法」と呼ばれる方法があります。これは女性ホルモンの働きを抑える薬を使う治療法です。研究では、ホルモン療法を受けた人と、受けなかった人とで、認知症の発症率に違いがあるかを比較しました。

その結果、ホルモン療法を受けていた乳がん患者さんでは、認知症の発症が12%少なく、アルツハイマー病にいたっては18%少なかったという結果が出ました。

一方で、前立腺がんの治療で行われる「男性ホルモンを抑える治療(アンドロゲン除去療法)」では、逆に認知症のリスクが2倍に増えるという報告もあります。
つまり、ホルモンの働きや治療の種類によって、脳への影響が異なる可能性があるのです。

なぜ、がんの人に認知症が少ないのか?

ここまでの研究を踏まえると、「がんになると認知症が減る」という傾向は確かに見えてきます。
では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか?

実のところ、はっきりとした理由はまだ分かっていません。
いくつかの仮説はありますが、その一つが「細胞のはたらきの違い」に注目した考え方です。

がんは、体の細胞が止まらずに増え続けてしまう病気です。
一方、認知症は脳の神経細胞が減っていく病気です。
つまり、細胞が「増えすぎる」か「減りすぎる」かという、真逆の現象が起きているわけです。
この“反対の特徴”が、お互いの病気の発症を抑えている可能性があると考えられています。

また、がんの治療で使われる薬やホルモンの影響が、脳の働きに何らかの良い変化をもたらしている可能性も指摘されています。

研究には注意点もある

ただし、これらの研究はすべて「観察研究」と呼ばれるタイプです。
つまり、実際に人々の生活や病歴を追いながら「関係があるかどうか」を調べたもので、「原因」を証明するものではありません。

たとえば、「がんの人は認知症が少ないように見えるのは、単にがんで亡くなる人が多いから」という見方もあります。
認知症になる前に命を落とす人が一定数いるため、統計上では“少なく見える”可能性もあるのです。

それでも、イギリスやアメリカ、アジアなど複数の国の研究で似たような結果が報告されていることを考えると、単なる数字のかたより(バイアス)だけでは説明しきれないのかもしれません。
今後、より詳しい仕組みを解明する研究が進むことが期待されています。

がんも認知症も「早めの気づき」が大切

ここまで見てきたように、「がん」と「認知症」は互いに全く違う病気でありながら、意外にも関係があることが分かってきました。
ただし、どちらの病気も早く気づくことがとても大切です。

がんは早期に発見できれば治る可能性が高くなり、認知症も早く気づけば生活の工夫やサポートで進行を遅らせることができます。
健康診断やがん検診を定期的に受けること、また「最近もの忘れが増えた」と感じたら、早めに相談することが大切です。

まとめ

まとめ
  • がんと認知症は、一見関係のない病気に思えるが、がんを経験した人では認知症が少ないという研究結果がある。
  • イギリスの大規模研究では、がん患者の認知症リスクが約11%低下。特に前立腺がんでは約30%も低下。
  • 乳がんのホルモン療法で認知症が減るという報告もある一方、前立腺がんの治療では増えるという報告もある。
  • 原因はまだ明確ではないが、細胞の働きの違いやホルモンの影響などが関係していると考えられる。
  • 今後さらに研究が進むことで、がんと脳の関係がより深く理解され、認知症の予防や治療にもつながる可能性がある。

がんと認知症――どちらも決して他人事ではありません。
だからこそ、体や心の変化に敏感になり、日々の生活を大切に過ごすことが、何よりの予防につながります。