私たちの背骨(脊柱)は、首から腰までつながる大切な支柱です。
その中を「脊柱管」と呼ばれるトンネルが走っており、
その中には脳から続く
「脊髄神経(せきずいしんけい)」
が通っています。
脊髄は、身体の動きや感覚を伝える大切な
神経の幹にあたるもので、ここから枝分かれ
して手足の神経(神経根)が伸びていきます。
背骨と靭帯の基本構造
背骨は、いくつもの
「椎体(ついたい)」
と呼ばれる骨が積み重なってできています。
椎体の後ろには
「椎弓(ついきゅう)」
があり、その間の空洞が
「脊柱管」
です。
この中を脊髄神経が通っています。
脊柱の安定を保つために、骨と骨の間には
「靭帯(じんたい)」
と呼ばれる強い繊維組織があります。
その中でも特に重要なのが
「後縦靭帯(こうじゅうじんたい)」
です。
これは椎体の後ろ側を縦に走り、脊柱管の前側の
壁を形成して、脊髄を守る役割を果たしています。
しかし、この後縦靭帯が時間をかけて硬くなり、最終的に
骨のように変化してしまうことがあります。
これが
「後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)」
と呼ばれる病気です。

後縦靭帯骨化症は、主に頚椎(けいつい=首の骨)
に起こることが多い病気です。
後縦靭帯が骨に変化して厚みを増し、その骨化した
部分が脊髄神経を圧迫してしまいます。
脊髄が圧迫されると、脳から手足へ伝わる神経信号が妨げられるため、
手足のしびれや痛み、動かしにくさなどが出てきます。
このような症状は
「頚椎症性頚髄症(けいついしょうせいけいずいしょう)」
などにも似ていますが、後縦靭帯骨化症では、
靭帯そのものが骨に変わるという特徴があります。
この病気は「指定難病(69番)」に認定されています。
つまり、国が医療費の助成対象とするほど、
原因不明で治療が難しい病気ということです。

後縦靭帯骨化症では、脊髄神経の圧迫が
進むにつれて、さまざまな症状が出てきます。
これらは
「巧緻性障害(こうちせいしょうがい)」
と呼ばれ、細かい手作業がしづらくなるのが特徴です。
足の神経も脊髄を通っているため、圧迫が進むと下半身の動きにも影響します。
症状が進行すると、日常生活に支障をきたす
ほど動きづらくなることもあります。
病院では、まず問診と神経学的な診察を行います。
しびれの範囲や手足の筋力、腱反射(けんはんしゃ)
の異常を調べることで、脊髄が関係しているかを確認します。
そのうえで、画像検査として「MRI」や「CT」が行われます。
MRIでは神経の圧迫の程度や場所がわかり、CTでは
後縦靭帯がどの程度骨化しているかが確認できます。
症状が軽い場合や、しびれが軽度で進行していない
場合は、まず保存的治療が選ばれます。
主な方法は次の通りです。
保存的治療を続けながら、症状の進行がないかを慎重に観察していくことが大切です。
一方で、以下のような場合には手術が検討されます。
脊髄神経は
「不可逆的(元に戻りにくい)」
な組織です。
つまり、圧迫が長く続くと、手術で骨を削っても
神経の働きが戻らないことがあります。
そのため、
「様子を見すぎて手遅れになる」
前に、
医師と十分に相談してタイミングを判断することが重要です。

代表的な手術が「椎弓形成術」です。
これは、脊柱管の後ろ側を構成する
「椎弓」を広げて、脊髄の通り道を広くする方法です。
骨化した後縦靭帯そのものを取り除くのではなく、脊髄の
通り道を広げることで神経の圧迫を緩和します。
神経へのダメージを最小限に抑える安全な方法
として多くの施設で行われています。
術後は数日から1週間ほどで歩行が可能になり、
数か月かけてリハビリを行います。
後縦靭帯骨化症は、進行がゆっくりな病気です。
早期発見と適切な治療で、多くの人が日常生活を維持できます。
また、日常生活では以下のような点に注意することが大切です。
定期的にMRIなどで経過を観察し、症状の変化を見逃さないようにしましょう。
後縦靭帯骨化症は、靭帯が骨に変化してしまうことで脊髄を圧迫し、
手足のしびれや運動障害を引き起こす病気です。
指定難病に認定されているように、原因はまだ明らかではありませんが、
診断技術と手術技術の進歩により、早期に対処することで
症状の進行を抑えることが可能です。
「しびれが少しあるけれど大したことはない」
と放っておくと、取り返しがつかないこともあります。
手足のしびれや巧緻動作の異常を感じたら、早めに
整形外科を受診して相談することが大切です。