【大発見?】がんの早期発見に新しい腫瘍マーカー「SDF4」:何がすごいのか?

がんの早期発見に光明──名古屋大学が発見した新たな高精度腫瘍マーカー「SDF4」

がんの診断や経過観察において欠かせない検査のひとつに「腫瘍マーカー」があります。腫瘍マーカーとは、がんの発生や進行にともなって血液中や尿中に増える物質のことで、その濃度を測定することで、がんの存在や治療効果、再発の兆候を知る手がかりになります。

現在、さまざまな種類の腫瘍マーカーが臨床で使用されています。たとえば胃がんや大腸がんでは「CEA」、すい臓がんや胆道がんでは「CA19-9」、肝臓がんでは「AFP」、前立腺がんでは「PSA」などが知られています。これらはがん診療の現場で広く使われていますが、実際には「感度(がんを正しく検出できる確率)」や「特異度(がんでない人を陰性と診断できる確率)」が十分ではないという課題を抱えています。

とくに、がんのごく初期段階ではマーカー値が上昇しないことも多く、「腫瘍マーカーが正常だから安心」とは必ずしも言えないのが現状です。そのため、腫瘍マーカーは診断の補助的な情報として使われるにとどまり、単独でのがん発見には限界がありました。

ctDNAの登場と腫瘍マーカーの課題

ctDNAの登場と腫瘍マーカーの課題

近年では、血液中に含まれる「がん由来のDNA断片(ctDNA)」を検出する技術が注目されています。ctDNAは、がん細胞が壊れるときに血液中に放出される遺伝情報の一部で、がんの再発や治療効果を非常に高い精度で予測できることが報告されています。

このため、「従来の腫瘍マーカーはあまり信頼できない」という見方が医療者のあいだで広がりつつありました。しかし、そうした状況のなかで、再び腫瘍マーカーの価値を見直すような画期的な発見が報告されました。それが、名古屋大学の研究グループによって見いだされた新しい腫瘍マーカー「SDF4(Stromal cell-derived factor 4)」です。

名古屋大学の研究チームが発見──血液で高精度にがんを検出

この成果は、2023年9月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。研究を主導したのは、名古屋大学大学院医学系研究科・消化器外科の神田光郎(かんだ・みつろう)先生のグループです。神田先生は、世界的に有名なジョンズ・ホプキンス大学での研究経験をもつ外科医・研究者であり、その成果が国際的にも高く評価されています。

研究グループは、まず胃がん細胞が分泌する多数のタンパク質を網羅的に調べ、そのなかから血液中で最も高い診断精度を示す物質として「SDF4」に注目しました。

SDF4の血中濃度を胃がん患者の検体で測定したところ、がんの進行にともなってその値が上昇することが確認されました。つまり、がんのステージが高くなるほど血液中のSDF4が増加するという明確な関連が見られたのです。

さらに注目すべきは、このSDF4が胃がんだけでなく、乳がん、大腸がん、すい臓がん、食道がん、肝臓がんといった複数のがんでも上昇していたという点です。これは、一種類のがんに限らず、幅広いがんの発見に応用できる可能性を示しています。

驚異的な診断精度──感度89%、特異度99%

驚異的な診断精度──感度89%、特異度99%

研究チームは次に、胃がん患者582人と健康な人80人の血液を使ってSDF4の診断精度を検証しました。その結果、感度は89%、特異度は99%という、これまでの腫瘍マーカーを大きく上回る高い性能が確認されました。

この数値の意味を簡単に言うと、「がん患者の約9割を正しく陽性と判定でき、がんでない人の99%を正しく陰性と判定できる」ということです。医療の世界では、感度や特異度が80%を超えるだけでも優秀とされるため、SDF4の精度は非常に高いレベルにあります。

また、ROC曲線(感度と特異度の関係を示す評価法)でのAUC値(曲線下面積)は0.973を示しました。AUCは1.0に近いほど優れた検査を意味するため、SDF4は理論上ほぼ完璧に近いマーカーといえるでしょう。

既存マーカーとの比較──CEA・CA19-9を凌駕

胃がんの診断では、従来から「CEA」や「CA19-9」といったマーカーが使用されています。しかし、これらの感度は10%台と低く、がん患者の多くを見逃してしまうという課題がありました。

研究グループが作成した比較グラフでは、感度・特異度・正確度など5つの指標のうち、SDF4はすべての項目でCEA・CA19-9を大きく上回っており、グラフの面積が広く広がるほど高精度であることを示しています。まさに、従来の腫瘍マーカーの限界を克服した新しい指標といえるでしょう。

多くのがん種にも応用可能な可能性

興味深いことに、SDF4は胃がんに限らず、食道がん、大腸がん、すい臓がん、乳がん、肝臓がんといった他のがんでも高い精度を示しました。感度・特異度はいずれも80〜100%の範囲に収まり、これまで個別にマーカーを使い分けていたがん診断の在り方を変える可能性があります。

この発見により、「一種類の血液検査で複数のがんを早期に発見できる時代」が近づいているのかもしれません。

今後の展望──実用化と国際共同研究へ

今後の展望──実用化と国際共同研究へ

名古屋大学のプレスリリースによると、今後はさらに多くの患者を対象にした国際共同研究を予定しており、SDF4を臨床現場で使えるようにするための測定キットの開発にも着手しているとのことです。

この検査が実用化されれば、従来の腫瘍マーカーよりも高い精度でがんを早期発見できるようになり、より効果的な治療や再発予防につながる可能性があります。また、簡便な血液検査で判定できるため、健康診断や定期検査の現場にも広く普及することが期待されています。

まとめ──がん検診の未来を変える可能性

SDF4は、これまで信頼性に課題のあった腫瘍マーカーの世界に新しい希望をもたらす発見です。
高い感度と特異度、複数のがん種に対応できる可能性、そして血液検査という手軽さ。これらの要素が組み合わさることで、がんの早期発見や治療方針の決定に大きな変革をもたらすかもしれません。

がんは早期発見・早期治療が何よりも重要です。そのために、より正確で負担の少ない検査技術が求められています。名古屋大学の研究チームによるSDF4の発見は、その未来を現実のものに近づける大きな一歩といえるでしょう。