【多発する「がん」の謎】まだ32歳なのに5つのがんを発症した女性!その原因は「生まれながらの遺伝子の異常」だった

「がん」と聞くと、多くの人が一生に一度かかるかどうかの病気という印象を持っているかもしれません。しかし、実際には一度がんを経験しても、その後に新たながんが発生することもあります。
一つのがんが治った後、まったく別の場所に新しいがんができることを「重複がん」と呼びます。転移ではなく、新しい原発のがんが生まれるという点が特徴です。
一般的に、最初にがんを発症した人は、その後に別のがんを発症するリスクが高いといわれています。それでも、三つ以上のがんを経験するケースは稀であり、五つものがんを発症することは極めて異例です。

今回は、中国で報じられた「32歳で5つのがんを経験した女性」のニュースをもとに、その驚くべき背景と、そこに潜む遺伝的な要因について解説していきます。

わずか18年で5つのがんを発症

わずか18年で5つのがんを発症

話題となったのは、中国に住む現在32歳の女性です。彼女は14歳から32歳までの18年間に、なんと5種類のがんを発症しました。
その経過をたどると、まるで信じられないような人生の物語が浮かび上がります。

最初のがんは、14歳のときに発症した「骨肉腫」でした。骨にできる悪性腫瘍で、成長期の子どもに発生することが多い病気です。彼女は抗がん剤治療と手術を受け、奇跡的に回復しました。

それから10年後の24歳、健康診断で「乳がん」が見つかります。こちらも手術と治療によって再発はなく、5年間順調に過ごしていました。
ところが30歳のとき、今度は肺に影が見つかり「肺腺がん」と診断されます。幸いにも早期発見で、手術により治癒しました。

しかし安心もつかの間、再び肺に異常が現れ、再度「肺腺がん」と診断。さらにその検査の中で、肝臓と胃のあいだに3センチのしこりが見つかり、「間葉系腫瘍」という珍しいがんが確認されました。

こうして、わずか18年の間に5つの原発がん──骨肉腫、乳がん、2度の肺腺がん、そして間葉系腫瘍──を経験したのです。

なぜ彼女だけが、こんなに多くのがんを?

なぜ彼女だけが、こんなに多くのがんを?

これほど短期間に複数のがんを発症するのは、極めて異例のことです。医師たちは「何か遺伝的な要因が関係しているのではないか」と考えました。

実際、彼女の家族にも気になる共通点がありました。
父親も50歳で胃がん・肺がん・軟部腫瘍など、複数のがんを経験して亡くなっていたのです。

家族三世代にわたる遺伝子検査の結果、彼女の父親と本人の遺伝子には「TP53」という遺伝子の変異があることが分かりました。祖父にはその変異が見られなかったため、父親の代で起こった変化が娘に受け継がれたと考えられます。

「TP53遺伝子」とは何か

「TP53遺伝子」とは何か

TP53は、人間の体内でとても重要な働きをする遺伝子です。
私たちの体の細胞は日々、分裂と再生を繰り返していますが、その過程でDNAに傷やエラーが生じることがあります。
このとき、TP53はまるで「細胞の警備員」のように働き、異常が見つかれば細胞の分裂を止めたり、自ら死滅させたりして、がん化を防いでくれます。

そのため、TP53は「ゲノムの守護神」とも呼ばれています。

しかし、この遺伝子に変異があると、監視機能が働かなくなり、DNAのエラーや損傷が修復されないまま蓄積していきます。
結果として、がん細胞が生まれやすくなり、若いうちから全身のさまざまな臓器でがんが発生するリスクが高まるのです。

リ・フラウメニ症候群という病気

このように、TP53遺伝子の変異が親から子へと受け継がれることで、がんになりやすい体質をもつ病気があります。
それが「リ・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni Syndrome)」です。

リ・フラウメニ症候群は、常染色体優性遺伝という形式で遺伝します。つまり、父親か母親のどちらか一方に異常がある場合、その子どもも約50%の確率で遺伝する可能性があります。

この症候群をもつ人は、乳がん、骨肉腫、脳腫瘍、軟部肉腫、副腎皮質がん、白血病、肺がん、消化器系がんなど、全身の多くの臓器でがんが発症しやすくなります。
中国の女性が経験した「骨肉腫」「乳がん」「肺がん」は、まさにこの症候群で見られる典型的ながんなのです。

いまの医療でできること

いまの医療でできること

残念ながら、リ・フラウメニ症候群そのものを根本的に治す方法は、現時点ではありません。
しかし、早期発見・早期治療によって命を守ることは可能です。

定期的な画像検査や血液検査を行い、少しでも異常が見つかればすぐに精密検査を受けることが重要です。
また、放射線治療によって新たながんが生じるリスクもあるため、治療方針は慎重に立てられる必要があります。

さらに、遺伝子検査によって自分や家族のリスクを把握し、予防的な検診を受けることも有効です。
日本でも「遺伝性腫瘍外来」や「がん遺伝カウンセリング」などの専門機関が増えており、希望すれば相談を受けられます。

研究が進む「遺伝子治療」の可能性

医学の進歩は日々目覚ましく、近年では遺伝子異常を直接修正する「遺伝子治療」や、がん細胞だけを狙って攻撃する「分子標的治療薬」の研究が進んでいます。
TP53遺伝子を補う方法や、変異によって働かなくなった遺伝子を再び活性化させる技術なども、世界中で研究段階にあります。

今はまだ実用化されていませんが、将来的には「生まれながらのがん体質」を治療できる日が来るかもしれません。

遺伝子を知ることは「運命」ではなく「備え」

この女性のケースは、確かに衝撃的です。
しかし、彼女の経験が示しているのは、「遺伝によって定められた運命」ではなく、「知ることで守れる命がある」ということです。

遺伝子の異常を早く知ることで、がんを早期に発見したり、予防的に検査を受けたりすることができます。
家族に若い年齢でがんを発症した人が多い場合は、医師に相談してみることが大切です。

がんの早期発見が進んでいる今、「遺伝」という見えないリスクを理解し、上手に付き合うことが、次の時代の“予防医療”の鍵となるでしょう。

まとめ

  • がんは一度きりではなく、複数回発症することもある。
  • 32歳で5つのがんを経験した女性の背景には、TP53遺伝子の変異があった。
  • この遺伝子異常によって起こるのがリ・フラウメニ症候群
  • 現在、根本的な治療法はないが、定期的な検診と早期発見が最善の対策。
  • 遺伝子医療の発展により、将来は予防・治療の可能性が広がる。

遺伝は変えられませんが、知ることで未来を変えることはできます。
自分や家族の体にどんなリスクがあるのかを理解し、定期的な健康管理を続けていくことこそが、最も確かな「がん予防」なのです。