【意外な新事実】「寒さ」でがん治療?暖めるより冷やした方がいい?最新の研究結果

がん治療と聞くと、「体を温めて免疫を上げる」という考え方を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ところが最近、「寒さ」ががんの成長を抑えるかもしれないという、意外な研究結果が報告されました。

今回ご紹介するのは、2023年に世界的な科学誌『Nature(ネイチャー)』に掲載された注目の研究です。
まだ動物実験が中心で、人への応用はごく初期段階ではありますが、将来的に「寒さ刺激」が手軽ながん治療法となる可能性が見えてきました。

■ 寒さが体に与える影響とは?

■ 寒さが体に与える影響とは?

私たちの体は寒い環境に置かれると、熱を生み出して体温を保とうとします。
その際に重要な役割を果たすのが「褐色脂肪組織(かっしょくしぼうそしき)」という特別な脂肪です。

脂肪と聞くと「太る原因」と思われがちですが、脂肪には2種類あります。
ひとつは「白色脂肪組織」。皮下や内臓のまわりに存在し、エネルギーを蓄える役割をもついわゆる“貯蓄型”の脂肪です。
もうひとつが「褐色脂肪組織」。これはエネルギーを消費して熱を生み出す脂肪で、体温を維持する“発電所”のような働きをします。

新生児にはこの褐色脂肪が豊富で、生まれてすぐの寒さから身を守っています。
一方で、大人になると量が減り、肩甲骨のあたりや腎臓の周囲など、体の一部にしか残りません。

この褐色脂肪は寒さによって活性化し、体内のブドウ糖を大量に取り込みながら熱を発生させます。
そのため、PET検査などでは、寒さにさらされた人の肩や背中のあたりが“赤く光る”ように映ることがあります。
それがまさに、褐色脂肪が活動している証拠なのです。

■ 褐色脂肪とがんの意外な関係

近年の研究では、褐色脂肪の活性が肥満や代謝だけでなく、がんの進行にも関わることがわかってきました。

褐色脂肪が活発になると、体全体のブドウ糖利用が高まり、血中のブドウ糖濃度が下がります。
がん細胞は通常、急速な増殖のために大量のブドウ糖を必要とします。
つまり、体の「燃料」であるブドウ糖を褐色脂肪が先に消費してしまうことで、がん細胞に行き渡る分が減り、成長が鈍る可能性があるというわけです。

■ 寒さががんを抑える?動物実験での成果

『Nature』誌で発表された最新研究では、マウスを使って「寒さ刺激」ががんの成長にどのような影響を与えるかが調べられました。

実験では、大腸がんを移植したマウスを2つの環境で飼育しました。
ひとつは快適な温度である30℃、もうひとつは非常に寒い4℃です。

結果は驚くべきものでした。
4℃という冷たい環境で過ごしたマウスでは、腫瘍の成長が大幅に抑えられ、寿命も延びたのです。
顕微鏡で観察すると、寒い環境のマウスではがん細胞が増えにくく、活動が鈍っていました。

さらにこの効果は大腸がんだけでなく、治療が難しいことで知られるすい臓がんでも確認されました。
研究者たちは「寒さによって褐色脂肪が活性化し、ブドウ糖を奪うことで、がん細胞が“燃料切れ”になった」と説明しています。

■ 人での実験 ― ほんの一歩だけ前進

研究チームは、次に人間での反応も調べました。
健康な被験者に薄着で16℃の部屋に入り、1日2~6時間その環境で過ごしてもらう、という実験を14日間行いました。

すると、PET検査で褐色脂肪の活動が明らかに上がっていたのです。
つまり、ヒトでも寒さによって褐色脂肪がしっかり働くことが確認されました。

また、ホジキンリンパ腫というがん患者1名にも22℃の環境で1週間過ごしてもらったところ、褐色脂肪が活性化し、腫瘍部分でのブドウ糖の取り込みが減少していました。
ただしこれは「症例1例」にすぎず、治療効果が実証されたわけではありません。
研究者たちは「非常に興味深い結果だが、さらなる検証が必要」と慎重な姿勢を見せています。

■ 寒さ刺激がもたらす可能性

■ 寒さ刺激がもたらす可能性

もし、この“寒さ刺激療法”が本当に効果を持つことが証明されれば、がん治療の世界に大きな変革をもたらすでしょう。
薬剤も高額な装置も必要なく、単に体を一定時間冷やすだけでがんの進行を抑えられるとすれば、低コストで副作用の少ない治療が実現するかもしれません。

現時点ではまだ夢物語の段階ですが、「人間の体が本来持っている温度反応を利用する」という点で、非常に画期的な発想です。

■ 海外では「冷却ベスト」も登場

実は、海外ではすでに“寒さ刺激”を応用した健康グッズも登場しています。
アメリカでは「クールファットバーナー」という冷却ベストが販売されており、着るだけで褐色脂肪を活性化させ、体脂肪や血糖値を下げる効果があると報告されています。

ニューヨークの名門「マウントサイナイ医科大学」でも、このベストを使った実験で血糖値低下が確認されました。
ただし、これは肥満改善を目的としたものであり、がん治療効果が証明されたわけではありません

■ まとめ ― 寒さがもたらす新しい希望

■ まとめ ― 寒さがもたらす新しい希望

「寒さ」ががん治療に役立つ可能性を示した今回の研究は、まだ始まったばかりの挑戦です。
現段階では動物実験と小規模な人での検証にとどまりますが、褐色脂肪という体内の“天然ヒーター”を利用するというアイデアは、医学の新たな可能性を示しています。

もし将来、冷却刺激によるがん抑制が確立されれば、誰でも簡単に実践できる補助療法として期待されるでしょう。

「温める」か「冷やす」か――
これまで常識とされてきた健康法に、科学が新しい風を吹き込もうとしています。