がんと診断されたとき、多くの方がまず直面するのが「仕事を続けるべきか、それとも辞めるべきか」という悩みです。治療に専念したいという気持ちと、生活や社会とのつながりを保ちたいという思い。その間で葛藤する患者さんは少なくありません。
しかし、現代では「がんと仕事」は切り離せないテーマになっています。日本では、がん患者の約3割が15歳から65歳までの就労世代にあたると言われています。さらに定年延長や高齢者の再雇用など、働く期間が長くなっている今、がんと共に働く人は今後ますます増えていくと予想されています。
では、がんを患ったとき、仕事を続けることにはどのような意味があるのでしょうか。今回は、「がんになったら仕事をやめるべきか」という問いに対して、仕事を続けることの意義や治療との両立のポイントについて考えてみましょう。

実際の調査によると、がんと診断された会社員の約3割が退職しているというデータがあります。がんの種類や進行度、治療内容、家庭の事情など背景はさまざまですが、「体力がもたない」「職場に迷惑をかけたくない」「治療に専念したい」といった理由で退職を選ぶ方が多いのです。
もちろん、体調や治療内容によっては休職や退職が必要な場合もあります。しかし、可能な範囲で仕事を続けることには多くのメリットがあります。
仕事をすることは、意識せずとも「体を動かすこと」につながります。通勤や職場での移動、人との会話など、日常の行動そのものが心身の活動を支えるのです。
実際、がんサバイバーを対象とした研究では、「体をよく動かす人ほど再発率が低く、生存期間が長い」という報告もあります。
デスクワーク中心であっても、完全に動かないという人はいません。仕事を通じた日常のリズムが、体調の維持や心の安定にも良い影響を与えているのです。
がん治療には医療費だけでなく、通院や生活費などさまざまな支出が伴います。もちろん「高額療養費制度」や「傷病手当金」「障害年金」などの公的支援もありますが、定期的な収入があることの安心感には大きな意味があります。
経済的な不安は心の負担となり、治療意欲にも影響します。収入を得る手段を維持することは、治療と生活の両立を安定させるための重要な柱といえるでしょう。
「仕事が生きがい」という人は少なくありません。
東京都福祉保健局の調査によると、がん患者のうち「働くことが自分の生きがいだから」と答えた人は57%にのぼります。仕事を通して社会に貢献し、同僚や顧客などとの関係を保つことが、心の支えになっているのです。
実際、ある胆管がんの50代男性患者の例では、手術後に教職に復帰し、数年間元気に働いていました。定年退職を迎えた直後に再発し、亡くなられたというケースもありましたが、仕事が生きるエネルギーとなって病気の再発を抑えていた可能性もあると考えられています。
人は社会とのつながりの中で、生きる意味を感じ、前に進む力を得ます。仕事はその象徴的な存在なのです。
もちろん、がんと仕事を両立するには無理をしないことが大切です。
以下のような工夫で、体調や状況に合わせた働き方を整えていきましょう。
① 無理をしない・抱え込まない
疲れを感じたら我慢せず、上司や同僚に相談しましょう。「助けを求めること」は弱さではなく、仕事を続けるための前向きな行動です。体調の変化を自分で正直に伝えることで、周囲も適切に支援できるようになります。
② 職場の制度を活用する
近年、多くの企業では「治療と仕事の両立支援制度」を導入しています。
たとえば、以下のような制度が利用できる場合があります。
通勤が難しいときや、通院のために時間を確保したいときには、こうした制度を積極的に活用しましょう。
③ 専門家に相談する
職場の人事担当者や産業医、または社会保険労務士、がん相談支援センターなどに相談することで、制度的なサポートを受けることができます。がんに理解のある医療ソーシャルワーカーが在籍する病院も増えています。
近年、「改正がん対策基本法」により、企業にはがん患者の雇用を継続できるような配慮をする「事業主の責務」が明記されました。
つまり、がんを理由にした解雇や退職勧奨は違法とされています。
また、厚生労働省も「治療と仕事の両立支援ガイドライン」を発表し、企業や医療機関、自治体が連携して患者を支援する仕組みづくりを進めています。
こうした社会の動きは、がんを抱えながら働く人にとって大きな支えとなっています。

がんと向き合うことは、肉体的にも精神的にも大きな挑戦です。
だからこそ、「仕事を続ける」という選択が人生の支えとなることがあります。
仕事をすることで体を動かし、生きがいを感じ、経済的にも安定する。
そして社会とのつながりを保ちながら前向きに生きる力を取り戻す。
そのすべてが、がんを克服するための大切な要素なのです。
もちろん、体調が優れないときは無理をせず、休む勇気も必要です。
大切なのは、「やめるか続けるか」ではなく、「どうすれば自分らしく働けるか」を考えること。
社会も少しずつ、治療と仕事を両立できる環境づくりを進めています。
これからの時代、「がんと共に働く」は特別なことではなく、当たり前の選択肢になっていくでしょう。
がんを乗り越え、自分らしい生き方を続けるために、できる範囲で「働く力」を大切にしていきましょう。