頚椎症の話

「最近、手がしびれる」
「物を落としやすくなった」
「ボタンが留めづらい」


そんな症状を感じると、多くの人は

「手首が悪いのかな?」


と思いがちです。
けれども、意外と多いのが

首(頚椎)に原因があるケース

です。

本日は、手のしびれの原因の中でも最も頻度の高い

「頚椎症(けいついしょう)」

について、できるだけ分かりやすくお話ししていきます。

手のしびれの原因はいろいろ

手のしびれの原因はいろいろ

手がしびれるとき、考えられる原因はいくつかあります。

  1. 頚椎症(けいついしょう)
  2. 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)
  3. 肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
  4. 糖尿病などの内科的疾患による神経障害
  5. 脳や脊髄からくるしびれ(脳梗塞など)

このうち、最も多いのが頚椎症です。
年齢を重ねると誰にでも起こり得る、いわば“首の老化現象”なのです。

頚椎症とは?

人間の首の骨は、7個の

**頚椎(けいつい)**

で構成されています。
この頚椎は、脳から続く大切な神経

**脊髄(せきずい)**

を守る“筒状の通り道”をつくっています。

ところが、年齢とともに骨や椎間板がすり減ったり、変形したりすることで、

骨の端に小さなトゲのような突起(骨棘:こつきょく)

ができることがあります。
この骨棘や変形した椎間板が神経を圧迫すると、
手足のしびれや筋力低下といった症状が出る

――これが頚椎症です。

神経の幹と枝のどちらが障害されるか

神経の幹と枝のどちらが障害されるか

脊髄の神経は、大きく分けると「幹」と「枝」に相当します。

  • 脊髄神経(幹) … 体の中心を通る太い神経の束
  • 神経根(枝) … そこから分かれて腕や手へと伸びる細い神経

頚椎症では、どの部分が圧迫されるかによって症状や治療が変わってきます。

1. 頚椎症性頚髄症(けいついしょうせいけいずいしょう)

→ “幹”である脊髄そのものが圧迫されるタイプ。
手足のしびれ、動かしにくさ、歩行のふらつきなどが出ます。

2. 頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)

→ “枝”である神経根が圧迫されるタイプ。
片側の腕から手にかけてのしびれや痛みが中心です。

医療従事者にとっては「どの神経が障害されているか」を見極めることがとても重要になります。

どんな症状が出るの?

手や腕の症状

  • 腕から手指にかけてのしびれ
  • ペットボトルのキャップが開けにくいなどの筋力低下
  • 箸が使いにくい、字が書きづらいといった細かい動作の不器用さ(巧緻性障害)

この

「巧緻性障害(こうちせいしょうがい)」


は、脊髄そのものが圧迫されたときに出やすい症状です。

足の症状

頚椎が原因でも、足に影響が出ることがあります。

  • 足のしびれやつっぱり感
  • つまずきやすい、階段を降りるのが怖い
  • 歩行中にバランスを崩す

脊髄は手だけでなく足の動きにも関係しているため、首のトラブルが全身に影響を及ぼすことがあるのです。

どうやって治すの?

頚椎の変形は「元には戻らない」

残念ながら、年齢とともに変形してしまった頚椎は自然に元に戻ることはありません
しかし、変形の程度と症状の強さは必ずしも一致しません。

つまり、

「見た目の変形が強くても、症状は軽い」

こともあれば、

「見た目は軽くても、しびれが強い」


こともあるのです。

軽症の場合は保存的治療

軽症の場合は保存的治療

症状が軽い場合や進行していない場合は、
手術をせずに経過を見るのが一般的です。

これを「保存的治療」と呼びます。

主な保存的治療法

  1. 薬による治療
     - 消炎鎮痛薬(痛みや炎症を抑える)
     - 外用薬(塗り薬・貼り薬)
     - 坐薬や内服薬(症状が強いときに使用)
  2. 頚椎カラー(首の固定装具)
     首の動きを制限して、神経の圧迫を軽減します。
  3. 牽引療法(けんいんりょうほう)
     専用の装置で首をゆっくり引っ張り、神経の通り道を広げます。
  4. 局所注射
     痛みが強い部位に局所麻酔薬やステロイドを注射し、炎症を鎮めます。

これらを組み合わせて、首への負担を減らしながら症状の改善を目指します。

手術が必要になる場合

保存的治療を続けても改善せず、次のような
症状が出てきた場合には、外科的手術を検討します。

  • しびれや痛みが強く、生活に支障がある
  • 症状が少しずつ悪化している
  • 筋力低下が明らかになってきた
  • 巧緻性障害が進み、日常動作が困難
  • MRI検査で神経の圧迫が強いことが確認された

神経は

**一度強く傷つくと回復しにくい(不可逆的)**


ため、進行性の場合は早めの対応が重要です。

椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)とは

頚椎症性頚髄症や神経根症で行われる代表的な手術が、椎弓形成術です。
これは、脊髄を囲む「椎弓(ついきゅう)」と呼ばれる骨の一部を
開いてスペースを広げ、神経の圧迫を解放する方法です。

近年では、体への負担を少なくするための低侵襲手術顕微鏡手術も普及しています。
手術後は、神経の圧迫が軽減されることで、しびれや筋力低下の改善が期待できます。

ただし、神経の回復には時間がかかることが多く、完全に元の状態に戻らない場合もあります。
だからこそ、**「放置せず、早めに相談」**が大切なのです。

まとめ:首の老化と上手に付き合うために

  1. 頚椎症は、首の骨の老化や変形が原因で起こる病気。
  2. 神経の“幹”が圧迫される場合(頚髄症)と、“枝”が圧迫される場合(神経根症)がある。
  3. 症状は、腕や手のしびれ・筋力低下、巧緻性障害など。
  4. 診断にはMRIが有効。
  5. 軽症では薬・装具・牽引などの保存的治療を行う。
  6. 進行が見られたら、椎弓形成術などの手術で神経の圧迫を取り除く。

頚椎症は、誰にでも起こり得る「首の老化」です。
しかし、放置してしまうとしびれが進み、生活動作に大きな影響を及ぼすことがあります。

一方で、早めに治療を始めれば、痛みやしびれを軽くし、
以前のように手を自由に動かせるようになる可能性も十分にあります。

「年のせいかな」と我慢せず、気になるしびれが続くときは、
整形外科や神経内科などで一度検査を受けてみましょう。
首の健康を守ることが、手や足、そして毎日の生活を守ることにつながります。