橈骨遠位端骨折の話

橈骨遠位端骨折とは ― 手首の骨折の仕組みと治療法

橈骨遠位端骨折とは ― 手首の骨折の仕組みと治療法

私たちの腕は、二本の骨によって支えられています。親指側にある「橈骨(とうこつ)」と、小指側にある「尺骨(しゃっこつ)」という2本の骨が並行して走り、その先端が手の骨とつながることで、手首から指先までの複雑でしなやかな動きを可能にしています。
手の根元の部分には、ソラマメほどの大きさの「手根骨(しゅこんこつ)」という小さな骨が8個あり、上下2段に並んでいます。この手根骨の上に橈骨の先端が接しており、ここがいわゆる「手首の関節」にあたります。私たちが手首を曲げたりひねったりできるのは、この橈骨と手根骨の境目にある関節が動くためです。

本記事では、この橈骨の先端部分――医学的には「橈骨遠位端(とうこつえんいたん)」と呼ばれる部分の骨折について、原因や特徴、治療方法などを詳しくご紹介します。

手をついたときに起こる代表的な骨折

転倒した際にとっさに手を前についてしまい、そのまま骨が折れてしまうという経験をされた方も多いのではないでしょうか。このようなとき、多くの場合に折れているのが、まさに橈骨の遠位端部分です。まれに隣にある尺骨が折れることもありますが、発生頻度としては橈骨の骨折の方が圧倒的に多いといえます。

骨折の際には、骨が単純に「ポキッ」と折れるというよりも、衝撃によって該当部位が「ぐしゃっと押し潰される」ように損傷を受けます。その結果、骨の形が変形し、手首の骨全体が手の甲の方向にずれてしまうことがよくあります。
この骨のずれが、見た目にも手首の変形として現れることがあり、痛みや腫れとともに強い不自由さを感じることになります。

骨粗鬆症と骨折の関係

骨粗鬆症と骨折の関係

橈骨遠位端骨折が起こりやすい背景には、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」という骨の病気が深く関係しています。
骨は主にカルシウムやリンなどのミネラルからできており、非常に硬くしっかりとした組織です。しかし、加齢とともに骨の中のカルシウムが減少すると、骨は次第にもろくなり、わずかな衝撃でも簡単に折れてしまうようになります。特に女性では、更年期を迎えて女性ホルモンが減少すると、骨密度の低下が進みやすくなります。

骨粗鬆症によって骨折が起こりやすい部位は、おもに次の四か所です。

  1. 椎体(ついたい):背骨の骨で、尻もちをついた衝撃などで圧迫骨折を起こすことがあります。
  2. 大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ):太ももの付け根部分で、転倒によって骨折しやすい部位です。
  3. 橈骨遠位端:転倒して手のひらをついたときに折れやすい部分です。
  4. 上腕骨近位部(じょうわんこつきんいたん):腕を強くぶつけたり、肩から転倒したときに骨折することがあります。

これら4つの部位は、いずれも加齢に伴って骨折の発生頻度が上昇しますが、増加の仕方にはそれぞれ特徴があります。橈骨遠位端骨折は、年齢とともに右肩上がりに増えていく傾向があり、大腿骨頸部骨折は70歳代以降で急激に増加します。また、椎体骨折は高齢になるほど一気に増える傾向があります。特に椎体骨折の場合、転倒などの強い衝撃がなくても、体の重みそのものによって骨が圧迫され、自然に骨折が生じることもあります。これが「圧迫骨折」と呼ばれるものです。

橈骨遠位端骨折の特徴と発生の仕方

橈骨遠位端骨折は、骨粗鬆症を持つ中高年の女性に多くみられます。転倒して手のひらをついたとき、衝撃が直接橈骨の先端に伝わり、そこが潰れるようにして折れてしまうのです。手の甲をついて転倒した場合にも骨折は起こりますが、その際は骨のずれる方向が逆になります。いずれの場合も、骨の形が変わり、手首の可動域や見た目に影響を与えます。

骨折の際には強い痛みや腫れが生じ、手首を動かすことが難しくなります。また、骨のずれが大きい場合には、手の形そのものが変わるほどの変形を伴うこともあります。

治療法 ― ギプス固定から手術まで

治療法 ― ギプス固定から手術まで

橈骨遠位端骨折の治療方法は、骨のずれの程度によって異なります。
ずれが少ない場合には、「保存療法」と呼ばれる方法が選択されます。これは、ギプスで手首を固定し、骨が自然にくっつくのを待つ治療法です。一定期間の固定の後、リハビリによって可動域を回復させていきます。

一方、骨のずれが大きい場合や、骨が潰れて変形してしまっている場合には、手術が必要となります。手術では、骨のずれを元の位置に戻したうえで、「プレート」と呼ばれる金属の板とネジを使って固定します。
現在ではさまざまな医療メーカーから多種多様なプレートが販売されており、骨の形や患者の状態に合わせて最適な器具が選ばれます。プレートには複数の穴があり、その穴にネジを通すことで骨同士をしっかりと固定します。

また、橈骨遠位端骨折では骨の一部がくさび状に押し潰されることが多く、その部分を単に元に戻すだけでは、骨が足りなくなってしまうことがあります。こうした場合には、人工骨や骨補填材を用いて、欠けた部分を補いながら元の形に近づけます。近年は、こうした再建技術の進歩によって、より自然な形に回復させることが可能になっています。

骨折後のリハビリと再発予防

治療後には、手首の動きを取り戻すためのリハビリテーションが重要です。固定期間が長くなると関節が硬くなり、可動域が制限されてしまうことがあるため、医師や理学療法士の指導のもと、少しずつ動かす練習を行います。

また、橈骨遠位端骨折をきっかけに、骨粗鬆症の検査を受けることも大切です。骨密度を測定し、必要に応じてカルシウムやビタミンDの摂取、運動習慣の改善、薬物療法などを行うことで、再発を予防できます。

まとめ

橈骨遠位端骨折は、転倒などの比較的軽い衝撃でも起こる、身近な骨折の一つです。特に骨粗鬆症を抱える中高年女性に多く見られ、適切な治療とリハビリ、そして骨の健康管理が重要となります。
日常生活の中で転倒を防ぐ工夫や、バランスの取れた食生活、適度な運動を心がけることが、骨の健康を保ち、将来の骨折予防につながるといえるでしょう。