私たちの体の中でも、膝は日常生活で非常に大きな負担を受ける関節のひとつです。階段の上り下りや立ち座り、歩行など、ほとんどの動作で膝は働いており、その構造はとても繊細です。そんな膝に「水がたまる」と聞くと、少し怖い印象を受ける方も多いでしょう。本記事では、この「膝の水」とは何なのか、そしてなぜたまるのかを、できるだけわかりやすく説明していきます。

まず、関節とは「骨と骨のつなぎ目」のことを指します。この骨のつなぎ目は、「関節包」と呼ばれるやわらかい袋状の膜で包まれています。この袋の中に、関節の動きを滑らかにするための潤滑液(滑液)が存在します。
「膝に水がたまる」とは、この関節包の内部に本来よりも多くの液体がたまっている状態のことです。つまり、水といっても血液やリンパ液ではなく、関節内で作られる滑液が増えている状態を指します。
膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)、そしてお皿の骨(膝蓋骨)から構成されています。それぞれの骨の端は、5~7ミリほどの厚みを持つ「関節軟骨」で被われています。この軟骨は、骨と骨が直接こすれ合わないようにし、衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしています。
健康な軟骨は、つるつると光沢のある真珠のような外観をしており、関節の動きを滑らかにしています。しかし、年齢とともにこの軟骨がすり減ってくると、骨同士が近づき、やがてぶつかり合うようになります。これが「変形性膝関節症」と呼ばれる状態です。
レントゲンで見ると、正常な膝では骨と骨の間に空間(軟骨の厚み)があるように見えますが、変形性膝関節症の膝ではこの隙間がほとんどなくなっています。軟骨がすり減り、骨が露出している部分が黄色く見えることもあります。
膝に水がたまる一番の原因は、この「軟骨のすり減り」です。軟骨が摩耗していく過程では、微細な削りカスが関節内に発生します。人体はこのカスを異物として認識し、それを取り除こうとする反応を起こします。その働きを担うのが、関節包の内側にある「滑膜(かつまく)」という組織です。
滑膜は、関節内の清掃係のような役割を果たしており、滑液(いわゆる膝の水)を分泌して関節内を洗い流そうとします。つまり、削りカスを取り除くために滑膜が活発に働く結果、膝の中に水が過剰にたまってしまうのです。
なぜ水をためて洗い流すのかという点については、現代医学でもまだ完全には解明されていませんが、体の自然な防御反応であると考えられています。不要なものを外に排出しようとする生理的な働きの一環なのです。

「膝に水がたまっているから膝が痛いのでは?」と感じる方が多いのですが、実際はその逆です。
痛みの原因は軟骨のすり減りであり、膝に水がたまるのはその結果として起こる現象です。つまり、痛みがあるから水がたまるのです。したがって、水を抜くことだけで根本的な痛みが解消されるわけではありません。
これもよくある疑問です。「膝に水がたまったら必ず抜くべきですか?」という質問に対しては、「必ずしもそうではありません」という答えが一般的です。
軽度の水たまりであれば、無理に抜く必要はありません。滑液は関節を保護するために必要な液体でもあるため、むやみに抜くと逆に関節の動きが悪くなったり、再び水がたまりやすくなったりすることもあります。
ただし、関節包がはちきれそうなほどパンパンに腫れている場合は例外です。過剰に水がたまって膝が圧迫されると、それ自体が痛みの原因となるため、そのようなときには一時的に水を抜く処置が有効な場合もあります。
この質問に関しては、残念ながら「その通り」です。根本原因である軟骨のすり減りが続いている限り、再び水がたまることは珍しくありません。
しかし、軟骨のすり減りは常に一定のスピードで進むわけではありません。ある時期に急激にすり減る時期がある一方で、しばらく安定する時期もあります。そのため、膝の痛みや水の量も、時期によって波があるのです。
軟骨の摩耗が一段落した時期には、水のたまり方も落ち着き、膝の状態が比較的安定することもあります。

膝に水がたまることを防ぐためには、原因となる軟骨の摩耗をできるだけ抑えることが大切です。
体重のコントロール、膝に負担の少ない運動(ウォーキングや水中運動など)、そして冷えの予防が有効とされています。
また、急な動作や過度なスクワット、階段の上り下りの繰り返しなど、膝に強い負担がかかる行動は避けることが望ましいでしょう。
医療機関では、痛みの程度や水のたまり方に応じて、ヒアルロン酸注射や抗炎症薬の使用、リハビリによる筋力改善などの治療が行われます。いずれも「水を抜く」ことが目的ではなく、関節の環境を整えて再び水がたまりにくくするための治療です。
膝に水がたまるという現象は、決して「突然起こる異常」ではありません。その背後には、軟骨のすり減りや関節への負担という原因があります。
つまり、膝の水は悪いものではなく、体が関節を守るために行っている自然な反応なのです。
大切なのは、「水を抜くこと」よりも、「なぜ水がたまっているのか」という原因を理解し、膝を長く健やかに保つための生活習慣を整えることです。