【最新研究】がん免疫を活性化する簡単な方法とは?運動が治療効果を高める理由

がん免疫を高める意外な方法とは?

今回は、「がんに対する免疫力を高める簡単な方法」についてのお話です。
がんの治療と聞くと、多くの人は「手術」や「薬」「放射線」といった治療法を思い浮かべると思います。ところが近年、これらの治療法を支える“からだの力”、つまり免疫の働きがとても重要だということが、世界的に注目されるようになってきました。

「驚異の免疫力」を引き出す研究

「驚異の免疫力」を引き出す研究

2018年、京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)先生がノーベル医学生理学賞を受賞しました。本庶先生の研究から生まれたのが、「オプジーボ」という新しいタイプの薬です。この薬は、がんによって働きが弱められていた免疫細胞に再び力を取り戻させ、がんを攻撃させるという、まさに“免疫のブレーキを外す”仕組みをもっています。

本庶先生が日本医師会で行った講演のタイトルは「驚異の免疫力」。
この言葉どおり、人間のからだには本来、がんを見つけてやっつける力が備わっており、それを最大限に引き出すことができれば、時にがんが小さくなったり、姿を消したりすることすらあるのです。

この仕組みを応用した「免疫チェックポイント阻害薬」は、これまで治療が難しかったがんにも効果を示すことがあり、がん治療の新しい希望として注目を集めています。

免疫を高める「もうひとつの方法」

さて、今回のテーマはこの免疫の力を「薬を使わずに高める方法」です。
実はその方法は、とても身近で、特別な道具もお金もいりません。
それは――「運動」です。

「えっ、それだけ?」と思うかもしれませんが、運動にはしっかりとした科学的な裏付けがあります。これまでの研究で、がんと診断されたあとに運動を続けている人のほうが、再発が少なく、生存率も高いことが分かっています。

たとえば、大腸がんの患者さんを対象にした研究では、運動量が多い人は少ない人に比べて、亡くなるリスクが50%以上も低かったという結果が出ています。
このため、アメリカ対がん協会や米国臨床腫瘍学会などのガイドラインでも、「がん患者さんは治療中であっても、無理のない範囲で定期的に運動することが望ましい」と明確にすすめられています。

運動が免疫を動かす仕組み

運動が免疫を動かす仕組み

最近発表された研究によると、運動によってがんに対する免疫の力が活性化され、がんの成長を抑えたり、薬の効果を高めたりすることが確認されました。
この研究は2022年に、世界的な医学雑誌『Cancer Cell』に掲載されたものです。

研究チームはマウスを使い、有酸素運動(トレッドミルでのランニング)が膵臓がんにどんな影響を与えるかを調べました。
マウスに毎日30分、週5回の「軽い運動」をさせたところ、運動しなかったマウスに比べて、がんの大きさが20~30%も小さくなっていたのです。

なぜ運動でがんが小さくなったのか。
がんの中を詳しく調べてみると、「キラーT細胞」と呼ばれる、がんを攻撃する免疫細胞がたくさん集まっていました。つまり、運動によって、がんを攻撃する“戦士たち”が集まってきたというわけです。

人間でも同じ効果が

この結果は動物だけの話ではありません。
人の膵臓がん患者さんを対象とした臨床試験でも、手術の前に有酸素運動を行った人のほうが、行わなかった人よりも、がんの中にキラーT細胞が多く集まっていたことが確認されました。

さらに詳しい分析で、運動による免疫の活性化には、「インターロイキン15(IL-15)」という体内の物質が深く関わっていることが分かりました。これは、免疫細胞を活発にするための“スイッチ”のような役割を果たしています。

運動と薬の相乗効果

研究チームは、運動と免疫の薬を組み合わせる実験も行いました。
結果は予想どおり、運動をしたグループでは薬の効果がさらに高まり、がんがより小さくなったのです。

つまり、運動によってまず免疫の“兵士”をがんに集め、そこに薬で“ブレーキを外す”ことで、がんへの攻撃力を最大限に高める――そんな理想的な流れができるのです。

運動の代わりになる薬も?

運動の代わりになる薬も?

興味深いことに、研究では「運動の効果を再現できる薬」も見つかりました。
それが「NIZ985」と呼ばれる薬です。
これはインターロイキン15を活性化させる薬で、マウスに投与すると、運動をしたときと同じように、がんが小さくなることが分かりました。

現在、この薬は海外でがん患者さんを対象に臨床試験が進められています。
もし効果が確認されれば、将来的には運動が難しい人でも、同じような免疫活性の効果が得られる可能性があります。

運動がもたらす希望

この研究結果は、がん治療における運動の大切さを改めて裏づけるものでした。
もちろん、運動といっても激しい運動をする必要はありません。
ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなど、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。

実際に、週に3~5回、1回30分ほどの軽い運動を続けるだけでも、体のなかの血流や代謝が良くなり、免疫の働きが整っていくと考えられています。
体が動くと心も前向きになり、ストレスも減ります。
これもまた、免疫を高めるうえで大きなプラスになるのです。

まとめ

運動には、体力の維持やストレス解消だけでなく、がんと戦う免疫の力を高めるという、驚くべき効果があります。
軽い有酸素運動を習慣にすることで、体のなかの「免疫の兵士」が活発に動き出し、がんの成長を抑えるだけでなく、治療の効果をより引き出すことができるかもしれません。

「薬」や「特別な治療」だけに頼らず、自分の体が持つ力を上手に引き出すこと――それこそが、これからのがん治療においてとても大切な考え方になっていくでしょう。
運動というシンプルな習慣が、免疫のスイッチを入れる“最良の薬”になるのかもしれません。