温泉でがんが治る?:研究結果を調査

がんと温泉の意外な関係とは?

今回は、「がんと温泉」という少し意外なテーマについてのお話です。
がんの治療中や、治療を終えたあとに温泉旅行を計画している方も多いかもしれません。
そんなとき、よく耳にするのが「温泉に行ったらがんが治った」「温泉で体調がよくなった」という話です。
実際のところ、温泉に入ることで本当にがんが治ることがあるのでしょうか?
今回は、この「温泉とがんの関係」について、できるだけわかりやすくお話ししたいと思います。

「奇跡の湯」と呼ばれる玉川温泉

「奇跡の湯」と呼ばれる玉川温泉

まず、がん患者さんのあいだで特に有名なのが、秋田県にある「玉川温泉」です。
名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。
「がんが消えた」「末期のがんが治った」といった話が口コミで広がり、全国から多くの人が湯治に訪れることでも知られています。
そのため「奇跡の湯」と呼ばれることもあります。

では、なぜ玉川温泉にそんな評判があるのでしょうか。
その理由のひとつに、「ラジウム温泉」という泉質があります。
玉川温泉の湯には、ごくわずかな放射線が含まれており、それが体によい影響を与えるのではないかと言われています。
これを「放射線ホルミシス効果」と呼び、低いレベルの放射線を浴びることで体の働きが活発になるという考え方です。

動物の実験などでは、少量の放射線を浴びると体の防御機能が強くなるという報告もあります。
そのため、「温泉に入ることで体の免疫力が高まり、がんが小さくなるのではないか」と考える人もいるようです。

実際に「温泉でがんが治る」証拠はあるのか?

実際に「温泉でがんが治る」証拠はあるのか?

では、玉川温泉のようなラジウム温泉で本当にがんが治ったという科学的な証拠はあるのでしょうか?
研究論文を調べてみると、日本でも海外でも「温泉でがんが治った」という確かなデータは見つかっていません。
つまり、「温泉に入ることでがんが消える」という話は、あくまで体験談や口コミの域を出ていないのです。

もちろん、こうした話を聞いて希望をもつこと自体は悪いことではありません。
ただし、医学的に証明された治療法ではないという点は、知っておく必要があります。

ちなみに、玉川温泉の公式ホームページを見ても、「がんに効く」といった説明は一切書かれていません。
効能として紹介されているのは、神経痛や冷え性、疲労回復など、一般的な温泉効果です。

温泉がもたらす「もう一つの効能」

しかし、玉川温泉のホームページをよく見ると、興味深い言葉があります。
それは「お客様同士による精神的ケア(情報交換や励まし合い)」というものです。
これを読んで、「なるほど」と思いました。

全国から同じ悩みを抱えるがん患者さんが集まり、お互いに励まし合いながら過ごす。
それだけでも、心が少し軽くなり、気持ちが前向きになるのではないでしょうか。
がんの治療では、体のケアだけでなく心のケアもとても大切です。
温泉という場所は、自然の中でゆったりと過ごしながら、同じ境遇の人とつながることができる、まさに「癒しの場」なのです。

研究でわかった「温泉と健康の関係」

それでは、温泉はがんにまったく関係がないのでしょうか?
実は、興味深い研究があります。

九州大学別府病院の研究チームが2018年に発表した報告によると、温泉に入る習慣が健康に良い影響をもたらす可能性があることがわかりました。
この研究は、大分県別府市に住む65歳以上の方々を対象に行われました。
別府といえば、日本有数の温泉地として知られています。
研究では、「どのくらいの頻度で温泉に入っているか」と「どんな病気を持っているか」をアンケートで調べ、その関係を分析しました。

その結果、温泉に入る習慣がある人は、血圧のトラブルが少なく、心臓や血管の病気も少ない傾向がありました。
さらに驚くことに、大腸がんの患者さんでは、温泉によって生存期間が長くなる傾向も見られたのです。

もちろん、この研究で「温泉ががんを治す」と断定されたわけではありません。
ですが、体を温めたりリラックスしたりすることで、体の調子を整え、免疫の働きが良くなる可能性は考えられます。
研究チームも、「温泉に入るという生活習慣には、がんを予防したり、回復を助けたりする要素があるのかもしれない」とまとめています。

温泉がもたらす体と心へのやさしい効果

温泉がもたらす体と心へのやさしい効果

温泉に入ることには、科学的に説明できるさまざまな効果があります。
たとえば、「温熱効果」によって血の巡りがよくなり、体がぽかぽかと温まります。
筋肉のこりがほぐれたり、痛みがやわらいだり、睡眠の質がよくなるという人も多いでしょう。

また、温泉には硫黄やナトリウム、炭酸など、泉質によってさまざまな成分が含まれています。
これらの成分が肌や関節にやさしく作用することもあります。

何より、温泉の魅力は「気持ちがリラックスすること」です。
自然の中で静かに湯につかると、緊張がとけて心が落ち着きます。
がんの治療中は、体のつらさだけでなく、心の不安やストレスも大きくなりがちです。
そうしたとき、温泉のやわらかな湯に包まれることで、「また頑張ろう」という気持ちを取り戻す人も少なくありません。

おわりに:温泉は「治す場所」ではなく「癒す場所」

まとめると、温泉そのものががんを直接治すという科学的な証拠はありません。
しかし、温泉に入ることで体が温まり、血流がよくなり、心が安らぐ――
そうしたことが結果的に体の回復力を高めることにつながるのかもしれません。

そして、何よりも大切なのは、「心の支えになる場所」としての温泉の存在です。
同じ病気を経験した人と語り合い、励まし合いながら過ごす時間は、薬にはできない力をもっています。

もし体調が落ち着いていて、主治医から入浴の許可が出ているなら、無理のない範囲で温泉を楽しむのも良いと思います。
温泉は、がんを「治す場所」ではなく、「心と体を癒す場所」。
そう考えれば、温泉はがんと向き合う人生の中で、大切な味方になってくれるはずです。