若いがん患者は進行が早くて短命?胃がん、大腸がん、すい臓がんの場合

―胃がん・大腸がん・すい臓がんの場合―

最近、「若い人でもがんになる」というニュースを耳にする機会が増えました。先日も、男子バレーボール日本代表の藤井直伸さん(当時30歳)が、目の不調をきっかけに検査を受けたところ、脳転移を伴う胃がんのステージⅣと診断されたという報道があり、多くの人に衝撃を与えました。

藤井さんのように、30代という若さでがんを宣告されるケースは決して珍しくなくなっています。しかし、「若いがん患者は進行が早く、短命である」というイメージを持つ人も少なくありません。では実際のところ、若年性のがんは本当に進行が早く、治療成績が悪いのでしょうか。ここでは、胃がん・大腸がん・すい臓がんの3つを例に、最新の研究結果をもとに解説していきます。

■ 若年性がんとは何か

■ 若年性がんとは何か

医学的に「若年性がん」とは、一般に40〜50歳未満で発症するがんを指します。若い世代では生活習慣によるリスクよりも、遺伝的な要因生物学的な性質の違いが関係していることが多いと考えられています。
例えば、「遺伝性びまん性胃がん」や「リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)」など、家族歴と関連する遺伝性がんが知られています。また、若い人のがんは細胞の分裂スピードが速く、治療への抵抗性を示すタイプが多いことも、臨床的に指摘されています。

■ 胃がん:進行がんでは若年患者の予後が不良に

まず胃がんについて見てみましょう。
2021年に医学誌「Frontiers in Oncology」に報告された中国の研究では、3000人以上の胃がん患者のうち、45歳以下で発症した154人の若年患者を対象に生存期間を比較しました。結果は以下の通りです。

  • 早期で手術可能な症例では、若年患者と中高年患者で生存期間にほとんど差がありませんでした。
  • 一方で、**切除不能の進行がん(ステージⅣ)**では、若年患者の生存期間が明らかに短く、中高年では中央値17.5か月に対し、若年群では12か月と報告されています。

また、日本からも同様の結果が報告されています。2022年に「Journal of Gastrointestinal Cancer」に掲載された研究では、ステージⅣ胃がん555例を分析。40歳未満の若年群(20例)と、60〜75歳の中高年群(535例)を比較したところ、若年群の生存期間がやはり短い傾向を示しました。

これらの結果から、進行した胃がんでは、若年患者ほど予後が悪くなる傾向があると考えられます。その理由としては、がんが発見された時点で進行している場合が多く、分子レベルでより悪性度の高い性質を持つ可能性があると考えられています。

■ 大腸がん:若年群は再発が多いが、生存率は同程度の研究も

次に大腸がんです。
アメリカで2021年に発表された「JNCI(Journal of the National Cancer Institute)」の研究では、ステージⅢの大腸がん患者2326人を分析。そのうち22%にあたる514人が50歳未満の若年発症例でした。
結果として、生存期間・無増悪生存期間ともに、50歳未満と50歳以上で有意な差は見られませんでした。つまり、「若いからといって必ずしも予後が悪いとは限らない」といえます。

しかし一方で、同年に「Journal of Clinical Oncology」に掲載された別の大規模研究では、異なる結果が示されています。ステージⅡ・Ⅲの大腸がん患者16,000人以上を対象に、50歳未満と50歳以上で治療成績を比較したところ、若年群のほうが再発率・死亡率が有意に高かったのです。特にステージⅢの患者では、若年群での無再発率が明らかに低く、再発リスクが高い傾向が確認されています。

このように、大腸がんでは「若年群と高齢群で差がない」とする研究と、「若年群の方が予後不良」とする研究の両方が存在します。したがって、若年性大腸がんは一概に「短命」とは言えないものの、がんの性質によっては再発リスクが高い可能性があるといえます。

■ すい臓がん:若年群では5年生存率がより低い

最後にすい臓がんを見てみましょう。
2019年に「Langenbeck’s Archives of Surgery」に掲載された研究では、海外データベース「SEER」に登録されたすい臓がん患者72,906人のうち、6.2%にあたる4523人が50歳未満でした。若年群では、より進行したステージで診断される傾向が明らかでした。

年齢・ステージなどの条件を調整した解析の結果、若年群の全生存期間は高齢群よりやや短い傾向を示しました。特に手術を受けた患者の5年生存率では、50歳以上が約27%であったのに対し、若年群では約18%と、有意に低い結果となっています。

つまり、すい臓がんではもともと全体の生存率が低い上に、若年発症例ではさらに予後が不良になる傾向が見られるということです。

■ 若いからこその希望もある

ここまでの研究をまとめると、以下のようになります。

  • 胃がん:進行がんでは若年群の予後が悪い傾向
  • 大腸がん:研究によって差があり、明確な結論はなし
  • すい臓がん:若年群で生存率が低い傾向

一方で、若い患者には明確な利点もあります。体力や臓器機能が保たれているため、より強力な治療に耐えられる可能性が高いのです。治療法の進歩により、分子標的薬や免疫療法といった新しい選択肢が広がっており、早期に治療を開始できれば長期生存も十分に期待できます。

また、若年性がんは遺伝的要因が関係することもあるため、家族の健康管理や遺伝カウンセリングによる早期発見が重要です。

■ まとめ

■ まとめ

「若いから進行が早くて短命」というのは、すべてのがんに当てはまるわけではありません。
若年性がんは確かに進行が早い場合もありますが、それはがんの種類や発見時のステージ、遺伝的背景などに大きく左右されます。
むしろ、体力や治療耐性という若さの強みを活かすことで、より積極的な治療を行い、長期に生存することも可能です。

大切なのは、「若いから大丈夫」と思い込まず、体調の異変を感じたら早めに受診すること。
そして、がんと診断されても、希望を失わずに治療へ向き合う姿勢です。
若くしてがんと向き合う人たちが、一日でも長く健やかに過ごせるよう、医学の進歩と社会の理解が求められています。