みなさんは、普段どのくらい眠っていますか?
「しっかり寝ないと体に悪い」と言われますが、では、たくさん眠れば眠るほど健康になるのでしょうか?
実は、そうとも言い切れないようです。今回は、「睡眠時間」と「がんによる死亡リスク」との関係についての最新の研究を紹介します。

がんを経験された方にとって、「生活習慣を整えること」はとても大切です。
なかでも、毎日の睡眠は体を休め、回復を助ける大切な時間です。
そのため、医療の現場でも「無理のない範囲で、できるだけ規則正しい睡眠を」とよく言われます。
では、実際に睡眠時間がどれくらいがんの経過に関係しているのか。
これまでもいくつかの研究で調べられてきました。
その結果、睡眠時間の長さによって、生きられる期間に明らかな差があることがわかってきたのです。
2023年5月に、海外の医学誌で報告された研究があります。
これは、アメリカで行われた大規模な調査で、ステージⅢの大腸がんの患者さん1175人を対象に行われました。
研究では、まず患者さんに生活習慣に関するアンケートを実施。
その中で「平均の睡眠時間」も詳しく記録されました。
そして、数年にわたり、がんの再発や生存期間を追跡調査したのです。
ただし、「長く眠っている人」は、体調が悪くて動けない場合もあります。
逆に「短い睡眠の人」は、もともと元気で活動的な場合もあります。
つまり、睡眠時間だけでなく、食事や運動、年齢や体調など、さまざまな要素が影響しているかもしれません。
そこで研究チームは、こうした条件の違いをできるだけそろえて、「純粋に睡眠時間がどう影響しているのか」を丁寧に分析しました。
結果は非常に興味深いものでした。
平均の睡眠時間をもとにして、がんが再び進行したり、亡くなったりする確率を比較すると、7時間前後で眠っている人が最も良い結果だったのです。
これをグラフにすると、リスクの曲線は「U字型」になっていました。
つまり、短すぎても長すぎてもリスクが高くなるということです。
具体的にいうと──
一方で、「眠りの深さ」や「日中の眠気」といった睡眠の質については、生存期間との明確な関係は見られませんでした。
つまり、「どのくらい眠るか」その“量”が、がんの経過に強く関わっている可能性が高いという結果でした。

「え?寝すぎるといけないの?」と驚かれた方も多いかもしれません。
もちろん、「睡眠は大事だからたくさん取ろう」と思う気持ちは自然なことです。
けれども、今回の結果を見ると、9時間を超える長い睡眠を続けるのは、かえって体によくないようです。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
ひとつの理由として考えられているのが、体の活動量の低下です。
長く眠ることで、日中の運動量が減り、血流が悪くなったり、代謝が落ちたりすることがあります。
また、生活のリズムが乱れてホルモンの分泌バランスが崩れ、体の回復力にも影響する可能性があります。
さらに、「長時間眠らないと疲れが取れない」という状態は、すでに体のどこかに不調があるサインとも考えられます。
つまり、長時間の睡眠そのものが問題というよりも、体の状態を反映しているともいえるのです。
この研究は大腸がんの患者さんを対象にしたものですが、同じような傾向はほかの種類のがんでも報告されています。
たとえば、乳がんや膀胱がんの患者さんでも、9時間以上眠る人のほうが死亡リスクが高くなるというデータがあります。
つまり、「長すぎる睡眠は体によくない」というのは、がんの種類にかかわらず共通する傾向のようです。

がんを経験した方の中には、治療の影響や不安感などから、睡眠リズムが乱れてしまうことがあります。
眠れない夜が続いたり、逆に眠りすぎてしまったりすることもあるでしょう。
そんなときは、無理をして自分で何とかしようとせず、主治医や看護師に相談するのが安心です。
薬だけに頼らず、昼間に軽く体を動かすことや、寝る前のスマートフォンを控えることなど、少しの工夫で眠りの質が変わることもあります。
また、朝にしっかり太陽の光を浴びることも大切です。
体内時計が整い、夜に自然と眠気が訪れやすくなります。
「眠れない」と悩むときこそ、生活のリズムを意識してみてください。
人によって、快適に感じる睡眠時間は少しずつ違います。
ただ、これまでの研究をまとめてみると、平均7〜8時間の睡眠が最も健康的である可能性が高いといえます。
5時間未満や9時間以上が続くようなら、いちど自分の生活リズムを見直してみるのがおすすめです。
眠りすぎでも眠らなすぎでも、体はストレスを感じます。
「よく眠ること」ではなく、「気持ちよく目覚めること」を目標にしてみましょう。
そのためには、寝る時間を一定にしたり、寝る前の1時間はリラックスして過ごす習慣をつけることも効果的です。
今回の研究からわかったことは、「9時間睡眠を続けると、がんによる死亡リスクが2倍以上高まる」という驚きの結果でした。
とはいえ、これは「長く眠ることが悪い」と断言するものではなく、「ほどよい睡眠時間を意識することが大切」というメッセージです。
がんと向き合ううえで、治療だけでなく「毎日の過ごし方」も大切な要素です。
食事や運動と同じように、睡眠も体の回復や免疫に深く関わっています。
理想は、7〜8時間の自然な睡眠。
寝すぎず、寝不足にならず、自分の体がいちばん心地よく感じるリズムを見つけていくことが、健康を保つ第一歩になるでしょう。