私たちは日常生活の中で、歩いたり、階段を上ったり、しゃがんだりと、
膝を使わない日はありません。
しかしその膝の動きがどのように成り立っている
のかを、意識している人は少ないかもしれません。
膝関節は単純に
「曲げ伸ばしをする蝶番(ちょうつがい)」
ではなく、実はとても複雑で精密な構造を持っています。
今回は、そんな膝の運動学について、専門的な
内容をやさしく解説していきましょう。

膝関節は、大きく4つの骨で構成されています。
大腿骨の末端は丸みを帯びた
**内顆(ないか)と外顆(がいか)**
に分かれ、脛骨側の平らな部分(脛骨顆)と接しています。
これらの骨の形が絶妙にかみ合うことで、膝関節は
滑らかに曲げ伸ばしができるようになっています。
膝の動きといえば、「曲げる・伸ばす」
という動作を思い浮かべる方が多いでしょう。
確かに大きな分類では
“屈曲(曲げる)”と“伸展(伸ばす)”
ですが、実際の膝の動きはもっと複雑です。
膝関節は、単なる蝶番のように一方向に開閉するだけではなく、
「回転」や「すべり」などの要素も含んでいる
のです。
この複合的な動きを生み出しているのが、
「ロールバック現象」と「大腿骨の外旋」
です。
「ロールバック」とは、膝を曲げていくときに
大腿骨が後方へ少しずつ転がるように動く現象
のことを指します。
膝を深く曲げる際、もし大腿骨が単に
回転するだけなら、すぐに骨同士がぶつかってしまいます。
しかし実際には、関節面の形状と靭帯の働き
によって、大腿骨は後方に滑りながら回転するのです。
これにより、膝はより大きな屈曲を可能にしています。
階段を下りたり、しゃがんだりする動作のときに、
このロールバックが自然と起こっています。

膝を曲げるときには、もうひとつ重要な運動があります。
それが**大腿骨の外旋(がいせん)**です。
膝が完全に伸びた状態から曲がるとき、
大腿骨はわずかに外側へ回転します。
この「外旋」によって、
関節の安定性と可動域の両方が確保されるのです。
逆に膝を伸ばすときには、自然と内旋方向に戻る――
これを「スクリューホームムーブメント」と呼びます。
この動きがあるおかげで、私たちは立っているときに
膝をしっかり固定でき、無駄な筋力を
使わずに姿勢を保つことができます。
膝の動きを生み出すのは、太ももやふくらはぎの筋肉です。
主に以下の筋肉が重要な働きを担っています。
屈曲(曲げる)
これら3つの筋肉はまとめて
「ハムストリングス」と呼ばれ、膝を曲げる主力です。
伸展(伸ばす)

膝は大きく動く関節である一方、
前後左右のグラつきを防ぐための強固な靭帯構造があります。
内側側副靭帯(MCL)
膝の内側にあり、外からの衝撃による“内反”を防ぎます。
外側側副靭帯(LCL)
膝の外側を走り、内からの衝撃(外反)を抑える役割。
前十字靭帯(ACL)・後十字靭帯(PCL)
関節の中心部を交差するように配置され、
脛骨が前後にずれないよう制御しています。
これらの靭帯があるおかげで、膝は
安定した状態で曲げ伸ばしができるのです。
肩や股関節のように「球関節」はあらゆる方向に
動けるのに対し、膝は比較的動きの方向が限られています。
しかし膝も完全な“蝶番”ではなく、
屈曲・伸展に加えてわずかな回旋運動
を持っている点が特徴です。
たとえば、
この“ねじれ”の動きがあるおかげで、歩行時の
地面の不整や体重移動にも柔軟に対応できるのです。
肩関節では「上腕骨の動き+肩甲骨の動き」
が組み合わさって腕を上げ下げしています。
膝の場合も似たように、
「大腿骨の動き+脛骨の動き」
の総和で関節運動が成立しています。
肩においては、
この考え方は膝にも当てはまり、
大きな筋群(大腿四頭筋・ハムストリングス)が主要な動作を担い、
その下で関節周囲の小さな筋や靭帯が姿勢を支えているのです。
まとめ
1️⃣ 膝関節は「大腿骨」「脛骨」「膝蓋骨」「腓骨」から構成される複雑な関節である。
2️⃣ 動きは単純な屈伸ではなく、「ロールバック」と「大腿骨の外旋」が組み合わさっている。
3️⃣ 膝の安定には、内外側側副靭帯と前後の十字靭帯が大きく貢献している。
4️⃣ ハムストリングスと大腿四頭筋のバランスが、スムーズな動作に不可欠。
5️⃣ 肩や股関節と同様、膝も複数の構造の連動によって
動いており、静的安定と動的運動の両立が図られている。
膝は、私たちの体重を支えながら、
歩く・座る・立ち上がる
などの動作を日々繰り返しています。
そのたびに、骨・筋肉・靭帯が見事に協調し、ほんの
数ミリ単位の「すべり」や「ねじれ」が生じているのです。
“ただの曲げ伸ばし”に見える動作の裏で、
これほどまでに緻密なメカニズムが働いている。
それが、膝という関節の面白さであり、まさに
人間の身体構造の妙といえるでしょう。