がんの治療というと、多くの人がまず思い浮かべるのは手術や抗がん剤などの“治すための治療”ではないでしょうか。けれども実は、治療を始める前の準備もとても大切です。今回は、治療の前に行うリハビリ「プレハビリテーション」についてお話ししたいと思います。

がんの治療は、どんなに技術が進歩しても、体にとってはやはり負担の大きいものです。
手術で体の一部を切除する場合もあれば、抗がん剤で全身に影響を与えることもあります。治療の過程で体力が落ちたり、筋肉が減ったり、免疫力が下がってしまうことも少なくありません。
治療が無事に終わったあと、「思ったより回復が遅い」「以前のように動けない」「疲れやすくなった」と感じる方も多くいらっしゃいます。中には、体力の低下がきっかけで寝たきりに近い状態になってしまう方もいるのです。
こうした治療後の負担を少しでも軽くし、より早く回復できるようにするために行うのが、「プレハビリテーション」です。
これは、がんと診断された時点から治療を始めるまでの間に行うリハビリのこと。つまり、「治療のための準備期間」に体と心を整える取り組みです。
近年では、がんの治療中だけでなく、診断直後から治療後の経過観察の期間まで、一貫してリハビリを取り入れる重要性が強調されるようになっています。その中でも、この“治療前のリハビリ”がとても注目を集めています。
簡単に言うと、プレハビリテーションとは「治療に立ち向かうための心と体のトレーニング」です。

このプレハビリテーションを行うことで、さまざまな良い効果が報告されています。
たとえば、
といったことがわかってきました。
つまり、治療を成功させるための土台作りが、このプレハビリなのです。
では、どんな人がプレハビリを受けたほうがよいのでしょうか。
ここでは、長年多くのがん患者さんを診てきた経験から、「特に必要だと思う7つのタイプ」をご紹介します。
これらに当てはまる人は、治療を始める前の段階からリハビリを取り入れることが特に重要だといえます。
では、具体的にプレハビリではどんなことをするのでしょうか。
実は、決まった方法があるわけではなく、体の状態に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。ただし、大きく分けると3つの柱があります。
まずは運動です。
軽いウォーキングなどの有酸素運動に加えて、筋トレのような筋力を維持する運動を組み合わせます。激しい運動ではなく、「少し息が弾む程度」で構いません。無理せず続けられることが何より大切です。
がんと診断されると、多くの人が不安や恐怖、焦りを感じます。
こうした心の状態を整えることも治療の大切な準備です。必要に応じて専門家の相談を受けることも有効ですし、自宅では瞑想やヨガなどを取り入れて心を落ち着かせるのもおすすめです。
栄養状態を整えることもプレハビリの大切な要素です。
特に不足しやすいのがたんぱく質。筋肉を保ち、体の修復を助けるために欠かせません。目安としては、体重1キログラムあたり1.2~1.5グラムを目標に、肉・魚・豆腐・卵などをバランスよく摂るようにしましょう。
この「治療前のリハビリ」をもっと多くの方に知ってもらいたいという思いから、2021年にクラウドファンディングが立ち上げられ、全国に広がる取り組みが始まりました。
集まった支援をもとに、ガイドブックが作られています。産業医科大学のホームページから無料でPDF版をダウンロードすることができますので、興味のある方はぜひ見てみてください。
また、産業医科大学のYouTube公式チャンネルでは、プレハビリの具体的な方法を動画で紹介しています。自宅でできる簡単な運動や呼吸法なども学べる内容になっています。

がん治療というと、どうしても「始まってから」「終わってから」のことを考えがちです。けれども、本当に大切なのはその“前段階”です。
治療の前に体と心を整えることで、治療のダメージを減らし、回復を早め、そして治療の効果を最大限に引き出すことができます。
これから治療を控えている方、またはご家族の方は、ぜひ「プレハビリテーション」という考え方を知っておいてください。
できることから少しずつ始めるだけでも、きっと大きな力になります。