手・肘の運動学について

私たちが日常生活で何気なく行っている

「物をつかむ」
「文字を書く」
「ドアを開ける」


などの動作。
これらの繊細な動きは、手や肘、そして
その周囲の骨や筋肉が見事に協調することで成り立っています。

「手」と「肘」は一見別々の関節に見えますが、実際には

**撓骨(とうこつ)・尺骨(しゃっこつ)・手根骨(しゅこんこつ)**

などが連動して動き、私たちの自由な動作を支えています。
今回は、そんな手と肘の運動学をやさしく紐解いていきましょう。

手と前腕をつくる骨の構造

手と前腕をつくる骨の構造

まず、手や肘の動きを理解するうえで欠かせないのが骨の構造です。

  • 撓骨(とうこつ):親指側を走る骨。前腕の外側に位置し、手首の動きを主に支える。
  • 尺骨(しゃっこつ):小指側の骨。肘の突き出た部分(肘頭)をつくる骨でもある。
  • 手根骨(しゅこんこつ):手首の小さな骨が8個集まってできた構造。2列に分かれ、近位列(身体側)と遠位列(手のひら側)に分類される。

この手根骨が、撓骨や尺骨と連結し、
手首の柔軟な動きを生み出しています。

手関節の基本的な動き

手関節は、方向によって4つの主な動きを持ちます。

  1. 掌屈(しょうくつ):手首を手のひら側に曲げる動き。
  2. 背屈(はいくつ):手首を手の甲側に反らせる動き。
  3. 撓屈(とうくつ):手首を親指側に傾ける動き。
  4. 尺屈(しゃっくつ):手首を小指側に傾ける動き。

私たちはこれらの動きを単独で行うこともあれば、複数の動きを
組み合わせて円を描くように動かすこともできます。

たとえば、コップを持ち上げて口に運ぶとき、
手首は掌屈と撓屈を同時に使っています。

手関節の動きを担う主な筋肉

手首の動きは、前腕にある筋肉によって細かく制御されています。
ここでは主な筋群を動作別に整理してみましょう。

1️⃣ 掌屈(手のひら側に曲げる)

  • 撓側手根屈筋(とうそくしゅこんくっきん)
  • 尺側手根屈筋(しゃくそくしゅこんくっきん)
  • 長掌筋(ちょうしょうきん)

これらが同時に働くことで、物を握るときや
手のひらを下に向けるときの安定した動きが生まれます。

2️⃣ 背屈(手の甲側に反らす)

  • 長撓側手根伸筋(ちょうとうそくしゅこんしんきん)
  • 短撓側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)
  • 尺側手根伸筋(しゃくそくしゅこんしんきん)

キーボードを打ったり、手をついて立ち上がるような動作でよく使われる筋群です。

3️⃣ 撓屈(親指側へ傾ける)

  • 撓側手根屈筋
  • 長・短撓側手根伸筋

細かい操作や、手を外に開く動きの際に活躍します。

4️⃣ 尺屈(小指側へ傾ける)

  • 尺側手根屈筋
  • 尺側手根伸筋

小指方向への曲げや、手首を安定させる補助的な動作に関与します。

筋肉の“組み合わせ”が動きを作る

筋肉の“組み合わせ”が動きを作る

もしあなたが

「手首を手のひら側に曲げたい」


と思ったとき、単一の筋肉だけでなく、
撓側手根屈筋と尺側手根屈筋を同時に働かせることが大切です。

これはちょうど、二人三脚のようなもので、どちらか一方だけが
強く働くと、手首が斜め方向に引かれてしまいます。

二つの筋肉がバランスよく協調することで、
真っすぐ滑らかな掌屈が実現するのです。

このように、手関節の動きは単なる「屈曲・伸展」ではなく、

複数の筋が同時に微妙な力加減で作用する協調運動

だといえます。

手根骨の“びっくりする”動き

手の動きは非常に多様で、私たちは指先で繊細な操作を行うことができます。
しかし実は、その土台となる手根骨自体の動きは意外と単純です。

手根骨は8個ありますが、これらは

「近位列(身体側)」と「遠位列(手のひら側)」


の2つのブロックとして連動して動きます。
それぞれがひとかたまりとなって、

一定のリズムと方向で連動する

ことで、結果として手首全体が滑らかに動いているのです。

つまり、私たちが自由自在に手を操っているように見えても、
その裏側では

「単純な骨の動きの組み合わせ」

が巧みに組み合わさっているというわけです。

肘関節の役割 ― 回内・回外運動の秘密

肘関節もまた、手の動きに大きく関与しています。
特に、前腕を「ひねる」動き――

**回内(かいない)と回外(かいがい)**

は、撓骨と尺骨の関係によって生まれます。

  • 回内:手のひらを下に向ける動き。撓骨が尺骨の上を内側に回り込む。
  • 回外:手のひらを上に向ける動き。撓骨が外側へ戻る。

この2本の骨の交差運動が、スプーンを持って口に運ぶ動作や、
ドアノブを回す動作などを可能にしています。

さらに、回内外の動きには「骨格的な軸」があり、
人によって微妙に違いますが、基本的には

肘から手首にかけて一定のライン上

で行われます。

この軸が安定していることで、力の伝達が
スムーズに行われ、手先の細かい作業が正確にできるのです。

手の動きと骨のリズム

手の動きと骨のリズム

手の動きが多様である一方、手根骨の運動は一定のパターンに従っています。
それはまるで、オーケストラのように「全体としての調和」で成り立っているのです。

  • 手根骨がひとつの固まりとして動く近位列と遠位列
  • それぞれの動きのタイミングと方向のズレが、手全体の柔軟な動きを生む

この協調があるおかげで、手首は単に曲がるだけでなく、
円を描いたり、斜めに動かしたりと、滑らかな立体的運動が可能になります。

まとめ

1️⃣ 手関節には「掌屈・背屈・撓屈・尺屈」の4つの基本動作がある。
2️⃣ 各動作は複数の筋肉の協調によって成立し、単独では成り立たない。
3️⃣ 手根骨の動き自体は画一的だが、そのリズムと連動が手の多様な動きを可能にしている。
4️⃣ 肘では撓骨と尺骨が回り合うことで回内・回外運動が起こる。
5️⃣ これらの動きが連鎖することで、私たちは器用に手を使うことができる。

手や肘の関節は、まるで精密な機械のように複雑でありながら、
無意識のうちに正確に動いてくれます。

その裏で骨や筋肉がどのように連携しているかを知ると、
身体の仕組みの奥深さに驚かされることでしょう。

毎日何気なく使っている手――その動きの美しさは、
数多くの筋肉と骨の絶妙なハーモニーの上に成り立っているのです。