骨折と聞くと、「骨が折れて痛い」「ギプスで固定する」というイメージをお持ちの方が多いと思います。ですが、実際に私たちの体の中でどのような修復が起きているのかをご存じの方は意外と少ないかもしれません。本記事では、骨の基本構造から、骨折の治り方、そして治療方法の選び方までを、できるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。

まずは、骨の基本的な構造からおさらいしてみましょう。骨の表面には「骨膜」という薄い膜があり、ここには血管や神経が豊富に通っています。その内側には「骨皮質」と呼ばれる硬い殻のような部分があり、カルシウムを多く含んだ強固な層です。さらにその奥には「海綿骨(かいめんこつ)」と呼ばれるスポンジ状の部分があり、骨全体を軽くしつつ強度を保つ重要な構造をしています。
海綿骨の内部には「骨髄」が存在します。骨髄は赤血球や白血球など、私たちの血液をつくる大切な組織です。骨は単なる「硬い棒」ではなく、生きた組織であり、絶えず新陳代謝を行っているのです。
骨を顕微鏡で見ると、メッシュ状の「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる網目構造が確認できます。この骨梁の隙間には2種類の重要な細胞が存在しています。
この2つの細胞がバランスよく働くことで、骨は常に新しく保たれています。
骨折とは、外力によって骨梁が破断し、骨と骨の間に隙間が生じた状態です。つまり、骨の構造が物理的に分断されてしまうことを指します。
では、骨が折れて隙間ができたとき、体はどのようにして修復を始めるのでしょうか?単純に「折れたところにカルシウムを埋めて固める」と考える方もいるかもしれませんが、実際の体内ではそれほど単純ではありません。カルシウムを単に詰めても、体重などの負荷によってすぐにズレてしまい、安定した修復は望めないのです。
人間の体は非常に精巧で、骨折を修復する際には、折れた部分だけでなく上下4〜5センチにわたる範囲の骨を「根本から作り直す」という大規模な再生を行います。

骨折の治癒は、おおむね次の4段階に分けられます。
ステージ1:炎症・細胞増殖期
骨折直後には多量の出血が起こり、「血腫(けっしゅ)」と呼ばれる血の塊ができます。この血腫の中で、マクロファージや幹細胞が活性化され、破骨細胞や骨芽細胞へと分化していきます。つまり、この段階で修復の準備が始まるのです。
ステージ2:線維性仮骨形成期
まだカルシウムを含んだ骨を作ることはできないため、まずは「線維性の仮骨(かこつ)」と呼ばれるボンドのような繊維組織が形成されます。これにより、骨の端同士がある程度安定し、大きくぐらつかない状態になります。
ステージ3:骨性仮骨形成期
仮骨で固定された後、骨芽細胞が本格的にカルシウムを沈着させ、強固な骨梁を形成していきます。この段階になると、骨はかなりしっかりとした強度を取り戻し始めます。
ステージ4:骨の再構築期
最後に、形成された新しい骨梁が完全に連続し、骨全体の構造が再び滑らかにつながります。この段階まで進むと、骨折の痕跡はほとんど分からないほどに回復します。
このように、骨折は単なる「修理」ではなく、「再生」と呼べるほどの生命活動によって治っていくのです。

骨折治療には大きく分けて「ギプス固定」と「手術」の2つの方法があります。医師は次のような基準で治療法を選びます。
骨がしっかりとくっつくためには、最初の1か月ほどが「ゴールデンタイム」と呼ばれます。この期間に骨がぐらつくと、治りが悪くなる可能性が高まります。そのため、少しでも不安定な場合は手術で金属プレートなどを用いて固定するのです。
| 方法 | メリット | デメリット |
| ギプス固定 | 体にメスを入れない。通院で治療可能。 | 固定力が弱く、骨がずれることがある。ずれたまま固まるリスクも。 |
| 手術(観血的整復固定術) | 強固な固定が可能で、骨が正しい位置で癒合しやすい。 | 切開が必要。感染や麻酔などのリスク、入院が必要な場合も。 |
どちらの方法にも一長一短があります。重要なのは、「骨がずれずに安定していること」です。医師と相談し、骨折の場所・年齢・生活スタイルに応じて最適な方法を選ぶことが大切です。
骨折の治療は、単に「くっつくまで待つ」ものではありません。体の中で骨芽細胞と破骨細胞が絶えず働き、何千倍にも増えながら新しい骨をつくっているのです。そのため、適切な固定とともに、栄養(カルシウム・ビタミンD・たんぱく質など)を摂取し、医師の指示に従ったリハビリを行うことが何よりも大切です。
骨は生きています。少しずつ確実に再生するその仕組みを理解し、焦らず前向きに治療に取り組みましょう。