最近、糖尿病の薬が、がん患者さんの生存期間に良い影響を与える可能性があることが分かってきました。特に注目されているのが「メトホルミン」という薬です。ここでは、メトホルミンの特徴やがんへの影響、最新の研究結果をわかりやすく紹介します。
メトホルミンは、糖尿病の治療に長く使われている薬で、血糖値を下げる効果があります。体がインスリンというホルモンに反応しやすくなるよう助け、肝臓で作られる糖の量を抑えることで血糖をコントロールします。市販されている薬の名前には、メトホルミン塩酸塩やメトグルコ、グリコランなどがあります。
近年の研究で、メトホルミンは糖尿病患者だけでなく、がん患者さんの生存にも良い影響を与えることが分かってきました。メトホルミンを服用している糖尿病患者さんは、がんになるリスクが低くなることが報告されており、さらにがん患者さんが服用すると、生存期間が長くなる可能性も示されています。過去の大規模な分析では、メトホルミンを服用しているがん患者さんは、死亡リスクがおよそ20~30%低くなることも確認されています。
2018年に発表された研究では、進行したすい臓の神経内分泌腫瘍という比較的珍しいタイプのがん患者445人を対象に調べられました。患者さんの半数ほどが糖尿病を持ち、そのうち25%がメトホルミンを服用していました。研究では、メトホルミンを服用しているかどうかで生存期間を比較したところ、メトホルミンを服用していない患者さんの生存期間は23カ月だったのに対し、服用していた患者さんでは44カ月と、ほぼ2倍に延びていたのです。

メトホルミンががんに影響する仕組みはまだ完全には分かっていませんが、いくつかの可能性が指摘されています。まず、間接的な働きとして、血糖値を下げることで、がんの増殖を促すインスリンやインスリンに似た成長因子の量を減らすことがあります。さらに、直接的な働きとして、がん細胞の増殖や転移の力を弱める作用があることも分かっています。また、メトホルミンは免疫の働きにも関わっており、がんが免疫から逃れるために利用する特定の細胞の活動を抑えることで、がんに対する攻撃力を高めることも確認されています。
2019年には、EGFRという遺伝子に変異のある肺がん患者を対象に、標準治療にメトホルミンを併用する臨床試験が行われました。患者は二つのグループに分けられ、一方は通常の治療のみ、もう一方は通常の治療にメトホルミンを追加しました。その結果、メトホルミンを併用したグループの生存期間は中央値で31.7カ月、併用しなかったグループは17.5カ月となり、約2倍の差が見られました。さらに、体格指数(BMI)が24以上のやや体重の多い患者では特に効果が高いことも分かりました。

まとめると、メトホルミンには一部のがんに対して、予防や治療の効果がある可能性が示されています。他の糖尿病薬には同じ効果は確認されておらず、メトホルミンはがん抑制に特有の作用があると考えられます。さらに、老化を遅らせる効果やアンチエイジング作用もあることが分かっており、研究者の間でも非常に注目されています。今後は、どの患者さんに最も効果があるのかを絞り込むことで、さらに高い効果が期待されています。糖尿病治療薬として長く使われてきたメトホルミンが、将来的にはがん治療の新たな選択肢になるかもしれません。日常的に使われている薬が、思わぬ形でがん治療に役立つ可能性があるという点は、非常に興味深い話です。