健康診断の項目の中でも、多くの方が気にされるのがコレステロール値ではないでしょうか。人間ドックで「高いですね」と指摘された経験を持つ方は少なくないと思います。一般にコレステロール値が高いと、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めることは広く知られています。一方で、あまり知られていませんが、低すぎるコレステロール値もまた、肝機能障害や甲状腺の病気、脳下垂体の異常などが隠れている可能性があります。
では、コレステロール値と「がん」との関係はどうでしょうか。コレステロールが高いとがんになりやすいのか、低いほうが危険なのか――なかなかイメージしづらいところだと思います。
実はこれまでの研究結果を見ると、少し意外な傾向が浮かび上がっています。
コレステロール値が低い人ほど、がんの発症リスクが高い
という報告が複数の研究で認められているのです。
今回の記事では、実際の研究結果を紹介しながら、なぜこのような傾向が出るのか、考えられている理由についても解説していきます。

2018年、世界的な医学雑誌である BMJ に、台湾で40万人以上を対象とした非常に大規模な前向き研究が報告されました。対象者は研究開始時点でがんの病歴がなく、慢性疾患の有無や血液検査の結果などが記録され、その後長期間にわたってがんの発症や死亡との関連が調べられました。
その結果、以下のような慢性疾患や検査値の異常を持つ人で、がんの発症リスクが高まることがわかりました。
中でも注目すべきは総コレステロール値です。
研究では、総コレステロール値が「異常」の人は、がんの発症率・死亡率が40〜60%増加していました。
さらに重要なポイントとして、
総コレステロール値は「低ければ低いほど」 がんのリスクが高まる
という傾向が示されたのです。
たとえば、
がんの発症リスクが44%も高い
という結果でした。
一般に「コレステロールが高いのは悪い」と考えられがちですが、がんに関してはむしろ低すぎることが大きなリスクとなる可能性があることが示唆されたのです。
では、日本人ではどうなのでしょうか。体質や遺伝、食生活が異なるため、アジアのデータでもそのまま日本人に当てはまるかどうかが気になるところです。
日本人 33,368 人を対象に行われた前向き研究では、研究開始時に測定した総コレステロール値とその後のがん発症との関係が調査されました。その結果、
という結果が出ています。
具体的には、
と、男女ともに実に5倍以上のリスク増加が見られました。
海外でも日本でも、
総コレステロール値が低い人ほど、がんになりやすい
という傾向は共通しているようです。
ただし、すべての研究がこの結論に一致しているわけではありません。中には、コレステロール値が高い人のほうが大腸がんになりやすいという報告もあります。しかし全体的な傾向としては「低いとリスクが上がる」という結果を示す研究のほうが多いといえます。
ここまで見ると、
「では、コレステロールは低いより高いほうがいいの?」
と疑問がわいてくるかもしれません。しかし、もちろん高すぎるコレステロール値が動脈硬化のリスクを高めることは事実であり、それは揺るぎません。
では、なぜ低いとがんが増えるのでしょうか。
実のところ、明確な理由はまだ解明されていません。
しかし、いくつか有力な仮説があります。
コレステロールは、私たちが体を維持していく上で欠かせない物質です。細胞膜の材料にもなり、ホルモンをつくる原料にもなり、免疫にも関わっています。
そのため、
といった状態では、自然とコレステロール値が低くなることがあります。
つまり、
「コレステロールが低いからがんになる」というより、
「体が弱っているからコレステロールが低く、がんになりやすい」
という可能性です。
研究はすべて前向き研究(将来に向けて追跡する研究)です。研究開始時点では「がんなし」と判断されていますが、実際には、
という可能性もあります。
いわば、
低コレステロールは「がんの影」だった可能性
という見方です。

一般的に、総コレステロールの基準値は次の通りです。
動脈硬化の観点からは高いほうが問題視されますが、がんに関しては今回紹介した研究の通り、低すぎるほうがリスクが高いという側面もあるようです。
つまり、
ということになります。
特に、総コレステロールが 160mg/dL未満 の場合は、
栄養状態や慢性疾患が隠れていないかを医師に確認してもらうことが大切です。

コレステロールは「悪者」というイメージを持たれがちですが、体にとって欠かせない役割を担っています。高すぎても低すぎても健康に影響する――それが最近の研究で改めて示されつつあります。
がんとの関係についても、
低コレステロールだから必ずがんになるわけではありません。
しかし、大規模研究で示された関連性を考えると、単なる「低いから安心」ではなく、身体の状態を総合的に見直すきっかけとすることが重要です。
健康診断の結果を受け取ったときは、数値の高低だけで判断せず、生活習慣や他の検査項目もふまえて、医療機関で相談するようにしましょう。