肉離れと腱断裂の話

今回は多くの方が耳にしたことがあるものの、実際には正しく理解されていない「肉離れ」と「腱断裂」について、医師の立場からわかりやすく解説していきたいと思います。これらのケガはスポーツだけでなく、日常生活の中でも起こり得るもので、仕組みや治療方法を知っておくことはとても大切です。ぜひ最後までご覧ください。

筋肉と腱の基本構造

筋肉と腱の基本構造

私たちが肘を曲げ伸ばししたり、足を動かしたりする際、その原動力となっているのが「筋肉」です。筋肉は赤身のお肉のような組織でできており、その両端には「腱(けん)」と呼ばれる白っぽい丈夫な組織が付いています。この腱が骨にしっかりと付着していることで、筋肉が収縮したときの力が骨に伝わり、関節が動く仕組みになっています。

さらに関節は「靭帯(じんたい)」によって安定性を保っていますが、今回のお話では主に“筋肉”と“腱”に絞って解説していきます。

肉離れとは何が起こっているのか

肉離れとは何が起こっているのか

「肉離れ」とは、筋肉が部分的に断裂してしまう状態をいいます。

筋肉を細かく見ていくと、「筋繊維束」という束からなり、その中にはさらに小さな「筋繊維」、さらにその中には「筋原繊維」があります。この筋原繊維はアクチンとミオシンというたんぱく質が規則正しく並んだ構造で、これらが収縮することで筋肉全体が縮んで力を発揮します。

筋繊維束は縦方向だけでなく横方向にもつながっており、筋肉が収縮すると中心部の筋繊維束は左右から強く引っ張られる形になります。この引っ張られる力が強すぎると、筋繊維束が「プチン」と切れてしまう。この状態が「肉離れ」です。

肉離れは筋肉全体が切れるわけではなく、部分的に断裂するのが特徴です。また、断裂部分には隙間が生じますが、これは骨折と同じように体の自然治癒力によって時間とともに埋まり、元の筋肉へと再生していきます。

肉離れが起こりやすい部位

肉離れが起こりやすい筋肉には特徴があります。それは「大きく強い筋肉であること」です。

特によくみられるのは次の部位です。

  • 下腿三頭筋(ふくらはぎ)
  • 大腿四頭筋(太ももの前)
  • ハムストリング(太ももの裏)

これらの筋肉は体の中でも大きく、強い力を発揮するため、その分強く引っ張られ、肉離れが起こりやすいのです。

肉離れの症状

強い痛み

断裂した瞬間は非常に強い痛みが走ります。ただし、この痛みは数日で落ち着き、徐々に改善していくのが一般的です。

出血と腫れ

筋肉の中には多くの血管が通っており、部分的な断裂であっても200~300ccほどの出血が起こることがあります。そのため、太ももやふくらはぎ全体が大きく腫れることも珍しくありません。

内出血が下に降りてくる

筋肉内で起きた出血は重力の影響で下方向へ移動します。例えばふくらはぎの肉離れでも、数日後にかかと付近に内出血(青あざ)が現れることがあります。患者さんは「かかとをぶつけた覚えがないのに青い」と驚かれますが、実際にはもっと上の筋肉で起きた肉離れの影響であることが多いのです。

肉離れの治療

肉離れの治療

肉離れの治療は基本的には安静が中心です。

筋肉は自然治癒力によって再生します。そのため、特別な治療をしなくても数週間かけて元に戻っていきます。注意すべきポイントは「無理をせず治癒を待つこと」。痛みが落ち着いたからといって早く動かしすぎると再発のリスクが高まります。

ただし、筋肉の治り具合をレントゲンで確認することはできません。したがって、医師も「治りましたよ」と明確に断言するのが難しく、経験的に「このくらいで治癒する」という期間を考えながら安静を指導しています。

腱断裂とは何か

次に「腱断裂」についてです。

筋肉が収縮すると、その力は腱を通して骨に伝わるため、腱には常に強い力がかかっています。この力に腱が耐えきれず切れてしまうと、それを「腱断裂」と呼びます。

肉離れが筋肉の“部分断裂”であるのに対し、腱は1本の強い繊維で構成されているため、「腱断裂はほぼ全断裂」で起こるのが特徴です。

腱断裂が起こりやすい部位

腱断裂が最もよくみられるのは次の部位です。

  • アキレス腱(ふくらはぎの腱)
  • 腱板(肩のインナーマッスルの腱)※加齢が主原因

特にアキレス腱はスポーツ中や軽いジャンプの着地など、「瞬間的に強い力が加わったとき」に切れることが多い腱です。

腱断裂の治療は手術が必要

肉離れは自然に治りますが、腱断裂は自然にくっつくことが難しいため、基本的に手術が必要です。

腱が切れると、筋肉に引っ張られて腱の断端が上に移動し、大きな隙間ができます。この隙間は自然には埋まらないため、手術で腱同士を縫い合わせます。

縫い合わせた腱は、1〜2か月かけて自然治癒力で強固にくっつきますが、この間は縫った糸だけでつながっている状態なので、負荷をかけないようにしなければなりません。

手術後の治療と注意点

腱が治るまでの1〜2か月間は「腱が引っ張られない姿勢」を維持することが最重要です。

下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)は足首を下に蹴る動作を担当しているため、アキレス腱断裂の手術後は足首を下に曲げないように固定することが必要です。そこで、手術後にはギプスによる固定を行います。

骨折時のギプスは「骨を動かさないため」ですが、腱断裂後のギプスは「縫った糸に力をかけないため」と目的が異なります。この違いを理解して治療していくことが、患者さんのモチベーションにもつながります。

まとめ

肉離れと腱断裂はどちらも「筋肉の収縮」が原因で起こるケガですが、その実態は大きく異なります。

  • 肉離れ:筋肉の部分断裂。自然治癒で元に戻るため安静が中心。
  • 腱断裂:腱が完全に切れる。自然には治りにくく手術が必要。

どちらの場合も、正しい知識と適切な治療が非常に重要です。もし強い痛み、腫れ、内出血がみられた場合は、早めに整形外科を受診しましょう。