生姜(しょうが)は、古来より薬効をもつ食材として広く利用されてきました。漢方薬の世界では欠かせない存在であり、風邪をひいた際に用いられる葛根湯にも、生姜が重要な構成生薬として含まれています。日本の食卓においても日常的に使用され、身体を温める作用や、胃腸の調子を整える働きなどが広く知られています。近年では代謝の促進によりダイエットを助ける食材としても注目を集めています。
一方で、生姜にはこれらの伝統的な効能だけでなく、がん患者にとって有用である可能性が示唆される研究が数多く報告されていることをご存じでしょうか。本稿では、生姜がもつとされる抗がん作用や、抗がん剤治療中の副作用緩和への可能性について、現在の研究知見をていねいにご紹介します。

近年の基礎研究において、生姜やその抽出成分ががん細胞に対してさまざまな作用を示すことが報告されています。試験管内での研究では、生姜の成分が肝臓がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、胆管がんなどの細胞の増殖を抑制したり、細胞死(アポトーシス)を誘導したりする働きが観察されています。
また、動物実験の段階ではありますが、生姜ががんの成長を抑制したり、転移を減少させたりしたという報告が複数存在します。特に注目されているのが、生姜の辛み成分である「ギンゲロール(Gingerol)」です。ギンゲロールには抗酸化作用や抗炎症作用に加え、がん細胞をアポトーシスへと導く作用があることが示唆されています。
2017年には、医学雑誌「Oncotarget」にて、生姜の代表的成分であるギンゲロールを用いた動物実験の研究結果が報告されました。乳がんの転移モデルを用いたマウスにギンゲロールを投与したところ、肺への転移が抑制される傾向が確認されたとされています。動物実験レベルとはいえ、このような研究は生姜が持つ可能性の一端を示す興味深い知見と言えます。
ただし、現時点では、ヒトを対象とした大規模な臨床研究はまだ十分に行われていません。 そのため、生姜に抗がん作用が「確実にある」と結論づける段階にはありませんが、今後の研究の進展が期待される分野です。
がん治療においては、治療効果と同じくらい、副作用への対策が重要です。副作用がつらく治療の継続が難しくなると、結果として治療の機会が損なわれる可能性があるためです。
そのなかで、生姜が抗がん剤治療中の悪心・嘔吐(吐き気)に対して有用である可能性が、いくつかの臨床研究で報告されています。
たとえば、乳がん患者60名を対象に行われた比較試験では、抗がん剤治療サイクルの最初の三日間に生姜を摂取するグループと、摂取しないグループに分けて症状の変化を調査しました。その結果、生姜を摂取したグループでは、抗がん剤による吐き気や嘔吐が有意に軽減されたと報告されています。
もちろん、すべての患者に同じ効果が現れるわけではありませんが、「比較的安全に取り入れられる食品」である生姜が、副作用の軽減につながる可能性があることは、がん患者にとって朗報と言えるでしょう。
生姜は手軽に入手でき、さまざまな料理に合わせやすい食材です。たとえば、
など、日常の食卓に自然に取り入れやすい点が大きな魅力です。
ただし、生姜には身体を温める作用がある一方、取りすぎると胃腸が刺激される場合もあります。無理のない範囲で「普段の食生活の中に少し取り入れる」程度の利用が望ましいでしょう。治療中の患者は、主治医や栄養士に相談しながら取り入れると安心です。

生姜は古くから健康維持に用いられてきた身近な食材であり、近年では抗がん作用の可能性や、抗がん剤治療中の副作用軽減への効果が研究されています。現時点でヒトにおける効果が確立されているわけではありませんが、動物や細胞を用いた研究では有望な結果が多数報告されています。
さらに、吐き気など治療に伴うつらい症状をやわらげる可能性があることから、「安全性の高い、取り入れやすい食材」として、多くのがん患者にとって心強い存在となり得ます。
毎日の食卓に無理なく生姜を加えることで、心身のケアに役立つ可能性があります。今後の研究によって、生姜の力がより明らかになることが期待されています。