小児期にみられる股関節疾患にはいくつかの代表的な病気が存在します。かつては出生率が高かったこと、また低出生体重児が多かったことなどから、これらの疾患は現在よりも頻繁に見られていました。しかし近年は出生数の減少に加え、新生児の発育状態が安定してきたことなども影響し、発症頻度はやや減少傾向にあります。それでも依然として一定数の子どもたちに股関節の病気は発生するため、その理解は非常に重要です。本稿では、小児にみられる代表的な股関節疾患である「ペルテス病」「発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)」「大腿骨頭すべり症」について、基本的な病態や治療法を分かりやすく解説します。

ペルテス病とは、4〜8歳ごろの子どもに発症しやすい、大腿骨頭(太ももの骨の先端)が血流障害によって壊死してしまう病気です。大腿骨頭に十分な血液が届かないことで骨がもろくなり、つぶれたり変形したりします。明確な原因は今も分かっていませんが、男児の発症が女児の約5倍とされ、男女差が大きいのが特徴です。
主な症状としては、股関節の痛みや歩行時の異常(跛行)、股関節の外転や内旋がしにくくなる可動域制限などが挙げられます。また骨頭が変形すると股関節が不安定になるため、周囲の筋力が低下し、特に歩行の安定に重要な中殿筋が十分に働かなくなります。その結果、歩行時に骨盤が左右に傾きやすくなり、いわゆる“はこう”(跛行)が目立つようになります。
治療の大きな目的は、骨頭にかかる負担を減らし、血流の回復を待つことです。子どもの骨は回復力が高く、適切に管理することで徐々に正常に近い形へと再形成されていきます。よく用いられる治療として「外転位免荷装具」があります。これは、股関節を外転位に保つことで骨頭が臼蓋(骨盤側の受け皿)にしっかりとはまり、求心性が保たれるように設計された装具です。また、体重が股関節にかからないようにする「免荷」効果も兼ねているため、骨頭の負担を減らしながら自然治癒を促す働きがあります。治療期間は長期に及ぶこともありますが、適切な装具療法やリハビリによって、多くの子どもは良好な回復を得ることができます。

(旧称:先天性股関節脱臼)
発育性股関節形成不全(DDH)は、生まれつき股関節の発育が不十分で、臼蓋が浅く、大腿骨頭が十分に包み込まれていない状態を指します。正常な股関節では、大腿骨頭が球状の臼蓋にしっかりとはまり込み、安定した構造を保っています。しかし臼蓋が浅い「臼蓋形成不全」の場合、骨頭が外れやすくなり、亜脱臼や脱臼を起こしやすくなります。
股関節が脱臼したまま成長すると、骨頭の位置がずれた状態で骨が発育してしまい、将来の変形性股関節症の大きな原因となるため、乳児期の早期発見・早期治療が非常に重要です。
治療には大きく2つの方法があります。
● リーゲンビューゲル装具(パブリックハーネスに相当)
赤ちゃんの股を外側に大きく開き、常に外転した状態を保持する装具です。足を閉じることはできませんが、自発的にバタバタ動かすことは可能です。この姿勢を保つことで、大腿骨頭が自然と臼蓋の正しい位置に戻り、脱臼が改善されていきます。現在でも標準的かつ高い効果が期待できる治療法です。
● オーバーヘッドトラクション法
リーゲンビューゲル装具で改善しにくい場合に行われる治療で、入院のうえ足を牽引し、股関節を一定の姿勢に保つ方法です。骨頭を正しい位置に誘導しやすくするために行われ、必要に応じて実施されます。
近年では出生数の減少や周産期医療の発達により、DDHの発症率は低下しているものの、早期診断と治療が将来の股関節疾患を防ぐ上で極めて重要である点に変わりはありません。
大腿骨頭すべり症は、骨の成長に重要な役割を持つ「骨端線(成長軟骨)」の部分で、大腿骨頭が後方にずれてしまう病気です。成長期の子ども、特に男児に多く、発症比はおよそ男児2.5:女児1とされています。
骨端線は骨の成長のためには不可欠な軟骨帯で、骨が大きくなる過程で常に存在しています。しかし軟骨であるがゆえに構造的には弱く、何らかの要因で負荷がかかると骨頭がずれることがあります。ずれ始めると股関節に痛みが生じたり、可動域が制限されたりするため、歩行異常として気づかれることが多い疾患です。
治療は、ずれが進行しないように股関節への負担を軽減することが中心となります。軽症例では装具を用いて体重負荷を抑える方法がとられますが、進行している場合やずれが大きい場合には、骨頭を金属製のスクリュー(釘)で固定する手術が行われます。これにより骨頭のさらなるすべりを防ぐことができます。一般の子どもに起こる病気ではなく、骨端線に特有の異常がある場合にのみ発生するため、通常の運動や生活で心配する必要はありませんが、早期発見が非常に重要です。

小児の股関節疾患は、早期に適切な治療を行うことで成長とともに良好な改善が期待できるものが多くあります。しかし、症状に気づかずに放置すると、成長後の股関節の変形や痛み、将来の運動機能に影響を及ぼす可能性があります。歩き方が不自然だったり、股関節の痛みを訴える場合には、早めに専門医を受診することが大切です。
ペルテス病、発育性股関節形成不全、大腿骨頭すべり症はいずれも小児期特有の疾患ですが、治療方法は確立されており、適切に対応すれば多くの子どもたちが健康な成長を遂げることができます。子どもの成長を健やかに見守るためにも、これらの疾患について正しく理解しておくことが重要です。