乳がんが他の臓器へ転移すると、「もう治らないのでは」と不安を抱く方は少なくありません。かつては医学界でも、転移が確認された段階で治癒は困難と考えられていました。しかし近年、「オリゴメタ(少数転移)」という新しい概念が注目され、治療の可能性が広がりつつあります。今回は、転移があっても長期生存の望みが持てるという最新報告を基に、その実態をわかりやすく紹介します。

以前の医療では、「がんが一カ所でも転移しているなら、体のどこかに無数に広がっている可能性が高い」という“全身転移説”が主流でした。この考え方のもとでは、転移が確認された患者さんに対して手術などの局所治療はほとんど選択されず、抗がん剤も十分な効果が期待できないと考えられていたため、予後は厳しいと判断されるケースが多かったのです。
しかし近年、がんの転移が必ずしも一気に全身へ広がるわけではないことがわかってきました。
オリゴメタ(オリゴメタスターシス)とは、
“転移が遠隔臓器に存在していても、その数が少なく増えにくい状態” を指す言葉です。
厳密な定義は統一されていませんが、一般的には以下のような特徴があります。
このような状態では、全身療法(抗がん剤)に加えて、転移部位への放射線治療や外科的切除といった局所治療を行うことで「治癒」の可能性が生まれると考えられています。
2021年4月、医学誌「Breast Cancer」に東京慈恵会医科大学から興味深い報告が掲載されました。
これは、73人の乳がんオリゴメタ患者を対象とした長期成績の分析です。
● 研究におけるオリゴメタの定義
● 転移部位の内訳
● 治療内容
患者の多くが全身療法として抗がん剤を受けており、使用された薬剤は一般的な乳がん治療薬(アントラサイクリン系、タキサン系、メトトレキサートなど)でした。
治療期間は平均で約2年間です。
また、28名(44%)が局所治療も併用しており、

観察期間の中央値は 151か月(約12年7か月) と非常に長期にわたるものでした。
結果、注目すべき点は次の通りです。
● 無再発生存率(治療後、再発なく生存している割合)
20年目:26.7%
25年目:26.7%
20年以降、グラフは横ばいとなり、再発のない状態が長期にわたり維持されていました。
つまり、約4人に1人は“20年以上再発なく生存”していたことになります。
● 長期生存と関連する条件
より長生きしていた患者には以下の共通点が見られました。
つまり、転移の広がりが少ないほど治療効果が期待できるという結論です。
オリゴメタであっても、すべての患者が長期生存を得られるわけではありません。報告では、約3/4の患者では十分な長期生存に至らなかったとされています。
しかし、この研究は希望の光でもあります。
抗がん剤の進歩に加えて、放射線治療の精度向上や手術技術の改善が、治癒に近い結果を残している可能性が高いと考えられます。今後、さらに研究が進めば、治る確率が高い患者の特徴がより明確にわかるでしょう。

今回紹介した研究は、「乳がんが転移していても、一定の条件に当てはまれば長期生存が十分に期待できる」ということを示しています。
転移=終わりではありません。
状態を正しく把握し、適切な治療を組み合わせることで、再発なく生活できる可能性があるのです。
がん治療は日々進歩しています。主治医とよく相談し、最新の治療選択肢を知ることが、より良い未来につながる第一歩になります。