災害におけるPTSDとその看護について
災害が発生すると、人々は身体的な被害だけでなく、精神的なストレスにも直面することになります。その中でも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は特に注目すべき問題です。本記事では、災害時におけるPTSDの概要、その要因や症状、心の変化、さらに適切な看護の重要性について詳しく解説します。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)は、日本語で“心的外傷後ストレス障害”とも呼ばれ、強い衝撃を伴う出来事を経験した後、1カ月以上経過してもその記憶や感情が無意識に蘇り、日常生活に支障をきたす状態を指します。例えば、死亡や重傷に至る事故、犯罪被害、自然災害、性的暴力、虐待などが要因として挙げられます。このような出来事が脳に深く刻まれることで、PTSDが引き起こされます。
災害においては、地震や津波などの自然災害を経験した被災者がPTSDを発症するリスクが高くなります。災害発生直後は、精神的なショックが非常に強い状態にあり、適切な支援やケアが行われない場合、後に深刻な精神的影響を及ぼす可能性があります。
PTSDは単なる思い込みや性格の問題ではなく、脳の機能に変化が生じることが原因とされています。具体的には、記憶や感情を司る脳の部位である海馬や前帯状皮質、扁桃体などに変化が起き、トラウマ記憶を忘れるためのプロセスが機能しなくなることが知られています。
PTSDの発症に寄与する出来事は以下の通りです:
特に自然災害においては、生命の危機を感じるような状況や、身近な人々の死を目撃することが強烈なストレス要因となります。このような体験が脳に深く刻まれることで、PTSDが引き起こされる可能性が高くなります。
災害を経験した人々の心には、時間の経過とともに以下のような段階的な変化が見られます。
災害直後の強いショック状態で、呆然として何も手につかない時期です。この時期には、心理的な保護と基本的な身体的ケアが重要です。
多くの支援者が被災地に駆けつけたり、メディアが注目したりすることで、“皆で乗り越えよう”という連帯感が生まれる時期です。しかし、この時期の支援が過剰になると、被災者が自立する機会を失うリスクもあります。
支援やメディアの注目が次第に薄れ、孤立感や不安感が高まる時期です。この時期にPTSDやその他の精神疾患が発症するリスクが高まります。適切な支援が行われない場合、被災者は社会的な孤立に陥ることがあります。
長期的な視点で復興に取り組む時期です。この時期には、積極的な心の変化を見せる人と、消極的で抑うつ的な反応を示す人とに分かれることが多いです。

PTSDには以下のような主な症状があります:
トラウマ体験が当時と同じ感情を伴って何度も蘇る現象です。これにより、日常生活において突然強い不安感や恐怖感が襲ってくることがあります。
トラウマ体験を思い出す可能性のある場所や状況を避けようとする行動です。これにより、被災者は社会的な孤立を深めることがあります。
不眠や過剰な警戒心が続く状態で、心身ともに緊張が解けない状況です。この状態が長期化すると、身体的な健康にも悪影響を及ぼします。
日常生活における興味や喜びの喪失が見られます。また、持続的な不安感や無力感を訴えることが多いです。
急性ストレス障害(ASD)は、トラウマ体験直後に誰にでも起こり得る反応であり、多くの場合、1カ月以内に自然に回復します。しかし、これが長引くとPTSDへと進展する可能性があります。このため、トラウマ体験直後から適切な対応を行うことが重要です。
PTSDの治療には主に以下の方法が用いられます:
患者が抱える不安や思考の歪みを修正し、適切な行動を促す心理療法です。
トラウマ体験に少しずつ慣れるため、不安を引き起こす状況に段階的に直面する方法です。
眼球運動を伴いながらトラウマ記憶を処理する技法で、専門機関で行われることが一般的です。
災害直後からの適切な看護は、患者のPTSD発症リスクを軽減し、回復を促進する上で非常に重要です。
被災地で活動する医療者自身もPTSDを発症するリスクがあります。長時間の救援活動や悲惨な現場への対応は、医療者にとっても大きなストレス要因となります。そのため、医療者自身の休息や心理的サポートも必要です。
災害によるPTSDは、被災者や支援者の心身の健康に深刻な影響を与える可能性があります。適切なメンタルケアを行うことで、被災者の社会復帰を支援し、支援者の精神的健康も守ることができます。災害時における看護師の役割は、被災者だけでなく支援者のケアも含め、非常に重要です。災害後の支援活動に携わるすべての人々が、この問題に対する理解を深め、適切な対応を行うことが求められます。