【注意】がんの進行を急速に早める「食べもの」はあるのか?

がんと食事の関係をどう考えるべきか
――話題の記事を科学的に検証する――

先日、プレジデントオンラインというウェブサイトに「がんの進行を急速に早める…がん治療医がすぐさま摂取をやめさせる“ある食べもの”」という記事が掲載され、大きな注目を集めました。食事に強い関心を抱くがん患者さんにとって、「がんの進行を早める食べ物」という刺激的な言葉は看過できないものです。記事を書いた医師が大学病院の名誉教授であるという肩書きもあり、内容をそのまま信じてしまう方も少なくないでしょう。

この記事では、がん細胞が好むとされる糖質を多く含む食品や、体を酸性に傾ける食品はがんの進行を早めるため、摂取を控えるべきだと主張しています。さらに、著者のクリニックでは食事制限やアルカリ化食事療法を取り入れ、多くの患者が劇的に寛解していると述べています。「甘い乳製品は最悪」「チーズケーキはがん細胞が活性化する」といった言い切りも見られます。

しかし、これらの主張は科学的にどこまで裏付けられているのでしょうか。ここでは、記事内容に沿って、最新の医学的知見から丁寧に検証していきます。

■ がんの進行を急速に早める食べ物は存在するのか?

まず前提として、本当に「がんを急速に進行させる食品」があるなら、国際的な基準であるIARC(国際がん研究機関)が、そうした食品を発がん性物質として分類しているはずです。

現在、IARC が「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と認定している食品は、じつは加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージ)だけです。これらは長期間にわたり大量に摂取すると、大腸がんなどのリスクが15〜20%ほど上昇するというデータがあります。ただし、これは「発がんリスクが相対的に上がる」という意味であり、「がんを急速に進行させる」という性質はありません。

当然ながら、記事で指摘されているチーズや乳製品、そして酸性化食品は、発がん性物質として認定されていません。したがって、タイトルのような「がんの進行を急速に早める食べもの」という表現には、科学的根拠がないと考えるほうが妥当です。

■ 乳製品でがんが進行するという証拠はあるのか?

■ 乳製品でがんが進行するという証拠はあるのか?

記事では、乳製品に多く含まれる IGF-1(インスリン様成長因子)ががん細胞の活動を活性化する可能性があり、乳製品は避けるべきだと述べています。しかし、実際の疫学研究や臨床研究を踏まえると、乳製品とがん進行とのあいだに明確な因果関係を示す証拠はありません。

たとえば、日本人女性2万人以上を対象とした前向き研究では、乳製品の摂取量と乳がんの発症リスクに有意な増減は見られませんでした。他国の研究でも同様の傾向が報告されており、乳製品を避けることで乳がんリスクが下がる、あるいは摂取することでリスクが上がるという明確な結論は出ていません。

また、チーズケーキが「がんを進行させる」と断定するのも科学的ではありません。チーズケーキの糖質量は1個あたり15〜20g程度で、白米の半分以下です。血糖値の上昇度を示す GI(グリセミックインデックス)も63と、白米やパンより低い数値です。したがって、チーズケーキが特別に血糖値を上げやすい食品とは言えません。

もちろん、砂糖を多く含む飲料や、糖質の過剰摂取が一部のがんの発症リスクを高める可能性は報告されています。しかし、それは「甘いもの全般が危険」という意味ではなく、あくまで偏った食事が長期的に健康に影響を与える可能性を示すにすぎません。

■ 酸性食品はがんを進行させるのか?

■ 酸性食品はがんを進行させるのか?

記事では、「酸性食品が体を酸性化し、がん細胞が好む環境をつくる」と主張しています。ただし、ここで言う「酸性食品」「アルカリ性食品」は、食品そのもののpHではなく、腎臓が処理する酸の量を表す「腎酸負荷」を指します。

魚、肉、乳製品、卵などは酸性食品、野菜や果物、豆類はアルカリ性食品とされています。しかし、酸性食品とがんリスクの関係についての研究は結果が一致していません。

ある研究では、酸性食品の摂取量が多いと膵臓がんや乳がんの発症リスクが高くなると報告されています。一方で、5万人以上を対象にした大規模調査では、酸性食品を多く食べるグループだけでなく、アルカリ性食品を多く食べるグループでも死亡率が上昇するという「U字型」の結果が示されています。つまり、どちらか一方に偏ること自体が健康リスクにつながる可能性があるのです。

また、がん患者さんを対象とした臨床試験で、「アルカリ性食品の多い食事が生存期間を延ばす」という質の高いエビデンスは存在しません。

■ まとめ ― 食事に不安を抱える患者さんへ

■ まとめ ― 食事に不安を抱える患者さんへ

科学的に確認されていることを改めてまとめると、

・発がん性が明確に認められている食品は加工肉のみ
・乳製品でがんが進行するという確かなエビデンスは存在しない
・酸性食品ががんを進行させるという証拠もない
・酸性食品・アルカリ性食品のどちらか一方を過剰に摂ると死亡リスクが上昇する可能性がある

こうした現状から、特定の食品が劇的にがんを進行させる、あるいは逆に劇的に寛解させるという主張は、慎重に受け止める必要があります。がん患者さんの不安や悩みに寄り添うことが大切ですが、不安を煽るだけの記事や言説に惑わされないためには、科学的な視点を持つことが何より重要です。

がん治療において食事は確かに大切です。ただし、極端な制限や偏った食事療法を続けることが健康に良いとは限りません。大切なのは、バランスよく必要な栄養を摂ること、そして不安を感じたときには信頼できる医療者に相談することです。