コロナ感染で「転移がん」が消失?驚きの症例報告を解説

コロナ感染で転移がんが消えた?思いがけない出来事について

がんが、特別な治療を受けていないにもかかわらず、自然に小さくなったり、見えなくなってしまうことがあります。これを専門的には「自然退縮」と呼びます。とても珍しいことではありますが、世界では実際に報告された例が少なくありません。そう聞くと驚かれる方も多いかもしれません。

では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。理由としてよく挙げられるのは、体の免疫の働きが大きく刺激されたときです。免疫とは、体を守る仕組みのことで、ふだんは細菌やウイルスから身を守ってくれています。ところが、強い感染症にかかったときなど、免疫がいつも以上に活発になることで、がん細胞に対しても強く反応してしまうことがあると考えられています。

今回紹介するのは、その「免疫の活性化」が関係しているのではないかと考えられる、とても珍しい例です。新型コロナウイルスに感染した後、遠くの場所に広がっていた腎臓のがんが自然に小さくなり、ほとんど見えなくなってしまったというケースが、医学誌に2例報告されました。

2021年9月に、海外の医学雑誌に掲載されたもので、どちらも転移した腎臓のがんを持つ男性の患者さんでした。本来であれば、がんへの治療が必要な状態でしたが、コロナ感染の影響もあって治療の開始が遅れたり、様子を見る期間ができてしまいました。しかしその間に、なんと転移していたがんが自然に縮んでいったのです。

■1例目:71歳の男性

■1例目:71歳の男性

最初の患者さんは、肺や胸の奥の部分にまで広がった腎臓のがんと診断されていました。治療を進めようとしていたところ、入院中にコロナに感染してしまい、予定していたがん治療はいったん延期になりました。

幸いコロナのほうは特別な治療をしなくても落ち着き、一度退院できました。その後あらためて腎臓の手術を受け、がんを取り除きました。手術後、体の状態を確認するために数か月後に撮影した画像では、以前大きかった胸の奥の転移がほとんど見えないほど小さくなっていました。その3か月後の再検査でも、縮んだ状態が保たれていたそうです。

■2例目:58歳の男性

■2例目:58歳の男性

もう一人の患者さんは、発熱と頭痛で病院を受診した際にコロナと診断されました。その検査の過程で、たまたま肺に広がった腎臓のがんが見つかったというケースです。

この方も腎臓の手術を受け、コロナの治療も受けました。がんの治療を追加で行う予定でしたが、コロナから回復した2か月後に再検査すると、肺に広がっていたはずの転移がほとんど見えないほど小さくなっていました。抗がん剤などはまだ始めていなかったため、自然に小さくなったと判断されたのです。

■なぜこんなことが起きたのか?

■なぜこんなことが起きたのか?

もちろん、こうした例が一般的であるわけではありません。むしろ極めて珍しい出来事です。しかし、過去にも重い感染症にかかったあとにがんが小さくなったという報告はいくつかあります。

強い感染症にかかると、体はウイルスを排除しようと免疫を総動員します。その際、体の中では「炎症物質」と呼ばれる働きの強い物質が大量に作られます。新型コロナでも、一部の人では非常に強い免疫反応が起こり、これによって症状が悪化することすらあります。

しかし今回のようなケースでは、その「免疫の働きの強まり」ががん細胞に対しても作用し、結果的にがんが小さくなっていったのではないか、と考えられています。いわば、コロナ感染という不幸な出来事がきっかけで、体の中の免疫が一時的に強く働き、その“巻き添え”としてがん細胞が攻撃された、というイメージです。

もちろん、意図的にこのような状況をつくり出すことはできませんし、感染症にかかることが良いというわけでは決してありません。ただ、このように「思いもよらない作用」が起きることがあるというのは、体の仕組みの奥深さをあらためて感じさせる出来事だと言えます。

■今後どうなるかはわからない

今回の2例では、転移していたがんは少なくとも数か月間、小さくなった状態が続いていました。しかし、長い期間の観察が行われたわけではないため、その後どうなっていくかはまだわかりません。小さくなったまま保たれることもあれば、時間が経って再び大きくなる可能性もゼロではありません。

とはいえ「コロナ感染のあと、治療前にもかかわらず転移したがんが自然に縮んだ」という事実は注目に値します。珍しいながらも“実際に起こりうる”ということが、今回の報告で改めて示された形です。

■まとめ

がんが自然に小さくなるというのは、ごくまれではあるものの実際に起きる現象です。そしてその理由の一つとして、感染症による免疫の活性化が関係していると考えられています。今回紹介したような例は特異なケースであり、感染症にかかることを肯定するものではありません。しかし、体の中では私たちが想像もしていなかった反応が起こりうるということを教えてくれる出来事でした。

以上、今回は新型コロナウイルスに感染したあと、転移していたがんが自然に縮小・消失したと報告された2つのケースについて紹介しました。