がん治療において、切除が困難な局所進行がんや再発したがんに対しては、一般的に抗がん剤治療や放射線(X線)治療が行われています。しかし、これらの治療は長期的に行うと効果が弱まってしまったり、正常な組織へも放射線が当たることで副作用や後遺症が問題となることがあります。
そのような課題を背景に、近年注目を集めている治療法のひとつが 粒子線治療 です。
2025年1月、厚生労働省の先進医療会議は、粒子線治療について「特定のがんにおいて、生存率改善に十分な科学的根拠がある」との評価を示しました。これは、現在先進医療として行われている粒子線治療の一部が、今後保険適用へと移行する可能性が高まったことを意味します。本記事では、この粒子線治療とは何か、どのようながんに有効なのか、そして今回の評価の意義について詳しく説明します。

放射線治療に用いられる放射線には大きく分けて 光子線 と 粒子線 の2種類があります。
粒子線の最大の特徴は、がん細胞に対して ピンポイントで高エネルギーを与えられる という点です。
粒子線は体内に入ると一定の深さでエネルギーが急激に高まり、そこで止まる性質があります(ブラッグピーク)。このため、がんに集中して照射でき、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑えることができます。
結果として、
というメリットがあります。

粒子線治療には大型の加速器設備が必要で、導入には巨額の費用と広いスペースを要します。
そのため実施施設は限られており、2025年現在、日本には以下の通りです。
合計24施設で治療が行われています。
粒子線治療は、段階的に保険適用が進んできました。
保険適用には至っていないものの、先進医療として治療が行われ、効果が検証されています。
対象となっているがんには以下が含まれます。
なお、先進医療の場合、治療費は全額自己負担で約300万円と非常に高額になります。この点は多くの患者にとって大きな負担となっています。

先進医療での臨床データを見ると、一部のがんでは従来治療より優れた生存率が報告されています。
たとえば 局所進行膵がん の重粒子線治療では、
と、難治性がんの中では比較的良好な成績が示されています。
こうした実績が積み重ねられたことが、今回の「十分な根拠がある」という評価につながっています。
今回、先進医療会議によって有効性が認められたがんは以下の5つです。
これらはいずれも手術が難しい、もしくは再発しやすいタイプのがんであり、治療選択肢が限られている領域です。
そのようながんに対し、粒子線治療が生存期間の延長に寄与すると判断されたことは非常に大きな意味を持ちます。
今回の結論を受けて、今後は中医協(中央社会保険医療協議会)が議論を行い、正式に保険適用に移行するかどうかが決定されます。
予定どおり承認されれば、早ければ2025年4月から保険適用となる見込みです。
対象となる患者は全国的に多く、特に肝がん、膵がん、子宮頸部腺がんなどは患者数も多いため、保険適用は大きな朗報となります。
また、治療費の自己負担が大きく下がることで、これまで経済的理由から粒子線治療を受けられなかった患者にも治療の選択肢が広がることが期待されます。
粒子線治療は、従来のX線治療に比べて周囲の正常組織への影響が少なく、がんをより正確に狙うことができる先進的な治療方法です。
これまで限られた施設で高額の自己負担で行われてきましたが、今回「十分な科学的根拠がある」と評価されたことで、保険適用に向けた議論が大きく前進しました。
もし実際に保険適用となれば、多くの患者にとって治療のチャンスが広がり、これまで以上に粒子線治療の恩恵を受けられる可能性が高まります。
がん治療の新たな選択肢として、今後ますます注目すべき分野といえるでしょう。