
がんという言葉を聞くと、多くの人が不安や恐怖を感じるかもしれません。昔から「がん=死の病」「がんになるのは自分のせい」など、さまざまな先入観やネガティブなイメージが存在してきました。こうしたイメージは、がん患者さん自身を苦しめるだけでなく、治療の選択や生活の判断に迷いを生むこともあります。
今回は、がんにまつわる代表的な5つの先入観について、正しい情報をもとに理解し、必要以上の不安や恐怖を取り除くことを目的にお話しします。
最も根強い先入観の一つは、「がんは死ぬ病気であり、治らない」というイメージです。確かに、昔はがんになると治る可能性が低く、予後も厳しいものでした。しかし、現在では医療の進歩によって、多くのがんは治る、あるいは長く付き合っていける病気になっています。
たとえば、2008年にがんと診断された全国の患者さん約24万人を調べたデータでは、全体で10年後に生存していた人の割合は約6割でした。つまり、全体の約6割の人が治るか、がんがあっても長く生きることができていたのです。もちろん、全てのがんが治るわけではなく、生存率が低いがんもあります。しかし、治療法の選択肢は年々増えており、以前よりも多くの人が治療の恩恵を受けられる時代になっています。
したがって、がん=死の病というイメージは、過去の情報に基づくものであり、今では正しくないことが多いのです。
次に多い誤解は、「がんになるのは生活習慣のせいだ」という考え方です。確かに喫煙や食生活、運動不足などはがんのリスクに関わることがあります。しかし、すべてのがんが生活習慣のせいで起こるわけではありません。
大規模な調査では、喫煙はがんの原因の約20%、食事や運動など生活習慣が約10%、感染症が約20%で、残りの半分は原因がはっきりわかっていないものでした。多くは、体の中で細胞が分裂するときの自然なミスが原因と考えられています。
つまり、がんになったからといって自分を責める必要はなく、過去の生活習慣を公開する必要もありません。がんは誰にでも起こり得る病気であり、自己責任と決めつけるのは正しくないのです。
「抗がん剤は毒で、副作用が強く、死に至ることもある」と考える人もいます。このイメージの背景には、抗がん剤の最初の薬が戦時中の化学兵器をもとに作られた歴史があります。しかし、現代の抗がん剤は全く違います。
実際、抗がん剤の開発によって多くのがん患者さんの寿命は延びています。たとえば大腸がんでは、1950年代には有効な薬が少なく、生存期間は平均で1年程度でした。しかし、その後に新しい薬が次々と開発され、現在では生存期間が2倍以上に延びるケースもあります。
したがって、抗がん剤は決して「毒」ではなく、病気を抑え、患者さんの命を延ばすための有効な治療法の一つなのです。
「がんの手術は痛くて大変」というイメージも、過去の手術の経験から来ています。昔は大きな傷を伴う開腹手術が一般的で、術後の痛みも強く、痛み止めも十分ではありませんでした。しかし、近年は手術方法が進化しています。
現在では、体への負担が少ない「低侵襲手術」が普及しています。お腹に小さな穴を数か所あけて器具を入れて手術する方法や、さらに穴を一つに減らす単孔式手術も登場しました。また、痛み止めの効果も改善されており、以前よりも痛みは少なく、術後の生活もスムーズです。
もちろん症例によって差はありますが、「手術=痛い」というイメージは必ずしも正しくありません。
最後に、標準の治療以外の方法、いわゆる代替医療についてです。「代替医療は怪しい、効果がない」と考える人は多いでしょう。確かに、すべての代替医療が科学的に証明されているわけではありません。しかし、心を落ち着けたり、生活の質を向上させたりする面では有効な場合があります。
たとえば、瞑想やヨガ、音楽療法などは、不安やストレスを軽くする効果が認められています。また、食事や運動を工夫することで、体力を維持し、治療の負担を和らげることもできます。代替医療はあくまで補助的な役割ですが、標準治療と組み合わせることで、結果的に治療の効果を高める可能性があります。
つまり、代替医療=インチキとは一概には言えません。正しく理解し、使い方を工夫することが大切です。

今回紹介した5つの先入観は、どれも過去の情報や誤解に基づくものです。
これらを正しく理解することで、がんに対する不安や恐怖を少しでも和らげることができます。情報に振り回されず、正しい知識をもとに自分や家族の治療や生活を考えることが、がんと向き合う第一歩です。