私たちが日常生活で何気なく行っている「物をつかむ」「指を曲げる」「親指を広げる」といった動作は、手の複雑な構造によって支えられています。しかし、手や指の関節・腱は加齢や使い過ぎによって負担が蓄積しやすく、さまざまな痛みや変形が起こることがあります。本記事では、特に発生頻度の高いばね指(弾発指)・ドケルバン病・母指CM関節症・へバーデン結節の4つの疾患について、その特徴や原因、診断方法、治療法などを分かりやすく解説していきます。

ばね指は、指を曲げる腱の通り道である“靭帯性腱鞘(プーリー)”に炎症が起こり、その部分が分厚くなって腱がスムーズに動かなくなる病気です。腱が肥厚し、狭くなったトンネル(腱鞘)内を通りにくくなることで、指を伸ばそうとした際に「カクッ」あるいは「ポンッ」と弾かれるような症状が生じます。
この現象は、まるで指の中にばねが入っているかのように感じられるため「ばね指」または「弾発指」と呼ばれます。自力で指を伸ばせず、もう片方の手で伸ばそうとすると急に伸びる、といった特徴的な症状が見られます。
腱がスムーズに動くためには、腱そのものだけでなく、腱を骨に沿わせるガイドの役割をもつプーリーが正常であることが重要です。プーリーは釣り竿のガイドのように腱を支える存在で、ここに炎症が生じて分厚くなると、腱が引っかかる原因になります。また、腱の周囲には“滑膜性腱鞘”があり、腱を滑らかに動かす潤滑剤のような役割を担いますが、プーリーが狭くなるとこの滑膜が押しつぶされ動きがさらに悪くなることもあります。

ドケルバン病は、ばね指と同じ「腱鞘炎」の一種ですが、症状が出る場所が異なります。
親指を伸ばす”短母指伸筋腱”と、親指を広げる”長母指外転筋腱”の2本の腱は、手首付近の同じ腱鞘のトンネルを通っています。この腱鞘が炎症を起こして狭くなると、親指を動かしたときに手首の親指側に強い痛みが生じる状態をドケルバン病と呼びます。
■ アィヒホッフテストで診断
親指を手のひらの中に入れて軽く握り、そのまま手首を小指側に倒すと強い痛みが出る場合、ドケルバン病を疑います。これは炎症で狭くなった腱鞘を通過しようと腱が引っ張られるために起こる典型的な症状です。
■ 腱鞘炎の治療法
ばね指と同様、治療は保存的治療が基本になります。
これらで8~9割の患者さんは改善します。
改善しない場合は手術を行い、狭くなった腱鞘を縦に切開して腱がスムーズに動くようにします。手術は15分ほどの局所麻酔で行われ、入院の必要はありません。

母指CM関節症は、親指の付け根にあるCM関節の軟骨がすり減り、痛みや変形を引き起こす病気です。膝の変形性関節症と同じく、加齢や使い過ぎにより関節の軟骨が摩耗することで起こります。
親指には2つの関節がありますが、そのさらに根元に位置するのがCM関節で、手首に近い部分にあります。ここは多方向に動く特殊な「鞍(くら)関節」であるため、物をつまむ、ひねるといった動作に大きく関わっています。
この関節は日常生活で非常に酷使されるため、指の関節の中でも特に早く老化が始まりやすい部位です。軟骨が減ると骨と骨の距離が狭くなり、ずれ(亜脱臼)が起こることで強い痛みを感じます。
■ 痛みの特徴
・瓶の蓋を開ける
・洗濯ばさみをつまむ
・スマートフォンを長時間操作する
これらの動作で親指の付け根に強い痛みが生じることが多いです。
■ 治療法
・CM関節を固定するための装具の使用
・痛み止めの服薬・外用薬
・ステロイド注射
多くの場合、関節の変形は進行しても痛みは時間とともに軽減する傾向があります。
それでも痛みが続く場合は、
といった手術が選択されます。近年は、大菱形骨を取り除く”関節形成術”がよく行われ、痛みの軽減に効果を上げています。
④ へバーデン結節 ― 指先の関節が腫れて痛む疾患
へバーデン結節は、示指から小指の“第1関節(DIP関節)”に起こる変形性関節症です。加齢や使い過ぎが原因で関節の骨が変形し、赤く腫れたり強い痛みが生じます。
リウマチと似た症状を示すため、受診の際に「リウマチでは?」と心配される方も多く見られます。しかし、以下のような違いがあります。
■ リウマチとの違い
治療は保存療法が中心で、痛みの強い時期に
・痛み止めの内服
・外用薬
などを使って症状が落ち着くのを待ちます。
手の疾患は、指をよく使う方や加齢によって多くの人に起こる可能性があります。
しかし、いずれの病気も適切な治療によって痛みを和らげることができ、日常生活への支障を大きく減らすことが可能です。症状が続く場合や、指の動きに違和感を覚えた際には、早めに整形外科を受診することをおすすめします。
今後も手の重要性を理解し、適切なケアを行うことで、快適な日常生活を維持していきましょう。