
近ごろ、健康法として「ファスティング」という言葉を耳にする機会が増えました。
ファスティングとは、数時間から数日間といった一定の期間、食べ物をとらずに過ごす方法のことです。もともとはダイエットの一つとして紹介されましたが、最近では、体の調子を整える方法として注目され、さまざまな病気の予防や改善にもつながるのではないかと期待されています。
そのなかでも、「がんに対しても効果があるのではないか」という声があり、海外ではファスティングを取り入れたがん治療の研究が進められています。実際に、がん患者さんが医師に「ファスティングはがんに良いのですか?」と相談する場面も増えているようです。
では、ファスティングは本当にがんに対して良い影響があるのでしょうか? また、安全に行えるものなのでしょうか?
今回は、アメリカがん協会がまとめた最新の報告をもとに、がんとファスティングの関係についてお話ししたいと思います。

2021年8月、世界的ながん専門誌に「がんの予防と治療におけるファスティング」という総説(複数の研究をまとめた論文)が発表されました。ここでは、今までに報告されてきた動物実験や人での試験結果を整理し、ファスティングががんにどのように影響するのかを大きく3つの視点から紹介しています。
その3つとは、
の3点です。この記事では、この流れに沿ってわかりやすくお話しします。
まず、ファスティングががんの予防や治療に役立つのではないかと考えられている理由についてです。
肥満ががんの発症や再発のリスクにつながることはよく知られています。
ファスティングや食事の量を抑える方法は、体重管理に役立つことが多いため、がんの予防という観点では、良い効果が期待できそうです。
私たちの体は、食べたものをエネルギーに変えて生活しています。食事をとらない期間ができると、体は「節約モード」になり、エネルギーの使い方を調整します。
このとき、がん細胞のエサとなる糖が減るので、がんの広がりを抑えられるのではないか、という考え方があります。
ファスティングを行うと、細胞の中で不要になったものを片付ける「オートファジー」という機能が活発になることが知られています。
ただし、このオートファジーはがんにとって良い面と悪い面の両方があります。
不要なものを掃除して細胞が元気になるという良い働きがある一方で、がん細胞が抗がん剤に対して強くなってしまうという報告もあります。
つまり、
という複雑な関係にあるのです。
この点については、今後さらに研究が必要だとされています。

ファスティングとがんの関係については、これまでに多くの動物を使った研究が行われてきました。しかし、その結果は一つにまとまっていません。
ある研究では、ファスティングをした動物では抗がん剤がよく効き、がんの進行が遅くなったという報告があります。
一方で、食事を普通にとっていたグループとほとんど変わらず、「ファスティングの効果は見られなかった」とする研究もあります。
また、ファスティング中だけがんの進行が遅く見えたものの、食事を再開すると差がなくなってしまったという結果もあります。
このように、動物実験では「効く」というものと「効かない」というものが混在している状況です。
次に、実際のがん患者さんを対象にした研究についてです。
こちらもまだ数は少ないのですが、いくつか興味深い結果が出ています。
乳がんの患者さんを対象にした試験では、抗がん剤の治療中にファスティングを取り入れたグループで、赤血球や血小板の減り方が軽く、副作用が少なかったという結果がありました。
つまり、ファスティングが副作用の予防に役立つかもしれない、というわけです。
別の研究では、夜の食事から翌朝の朝食までの時間を13時間以上あけていた乳がんの患者さんは、13時間未満の人と比べて再発が36%少なかったという報告があります。
最近の研究では、抗がん剤の前後に「絶食模倣食(FMD)」という、ほとんど食べない状態に近い食事を数日間続けることで、治療の効果が高まったという結果もあります。
絶食模倣食は、野菜中心でアミノ酸を抑えた特別な食事を4日間続けるという方法で、お茶やスープなどの水分は自由にとれます。
完全に食べないわけではないので、少し取り組みやすいと言われています。
ただし、これらの研究はまだ参加人数が少なく、結論を出すには不十分です。
最後に、これまでの内容を踏まえてまとめます。
つまり、今流行しているからといって、がん患者さんが自己判断でファスティングを行うのは危険で、注意が必要ということです。
体力が落ちてしまえば治療そのものが続けられなくなってしまう場合もあります。
もし興味があれば、必ず主治医と相談し、治療との相性や体の状態を確認したうえで検討することが大切です。