肩は、人体の中でも特に可動域が広く、複雑な構造をもつ関節です。その自由な動きを支えるために、骨・靭帯・筋肉が緻密に連携していますが、その分だけ外傷を受けやすいという側面もあります。スポーツや転倒などの外力が加わると、肩関節の脱臼や鎖骨骨折、肩鎖関節脱臼など、さまざまな外傷が発生することがあります。
本記事では、肩まわりに起こりやすい代表的な外傷について、その仕組みや治療方針、リハビリの考え方までを丁寧に解説します。

肩関節は球状の上腕骨が肩甲骨のくぼみに収まっている構造ですが、このくぼみは非常に浅く、可動域が広い反面、不安定になりやすい特徴があります。
● 一度脱臼すると再発しやすい
肩関節を一度脱臼すると、半数以上の人が再び脱臼すると言われています。これは、脱臼によって靭帯や関節唇が傷つき、関節を安定させる機能が弱まってしまうためです。
● 脱臼の方向はほぼ決まっている
肩の脱臼の 80%以上が前方脱臼。
転倒したとき手をついて腕が外側に開くと、上腕骨が前へ押し出されるようにして外れてしまいます。
肩が脱臼すると、周囲の組織に次のような損傷が起こることがあります。
● バンカート病変
関節の受け皿である「関節唇」が前方に剥がれる損傷。
関節の安定性が失われ、脱臼を繰り返す原因になります。
● ヒルサックス病変
脱臼の際、上腕骨が関節の縁にぶつかることで生じる“へこみ”。
骨に欠けができることで、再脱臼しやすくなります。
いずれも反復性脱臼の大きな要因であり、治療方針を決める際の重要な指標になります。
反復性脱臼に対して行われる代表的な手術が
**鏡視下Bankart修復術(バンカート修復術)**です。
● 手術の内容
肩の中を小さなカメラで観察しながら、スーチャーアンカーと呼ばれる器具で関節唇を元の位置へ縫い付け、靭帯の緊張を再建します。
● 術後の回復
縫い付けた組織は、時間をかけて徐々に強度を取り戻します。
早く動かしすぎると縫合部に負担がかかり、治癒が妨げられるため、リハビリには段階的な調整が欠かせません。
● リハビリで重要なポイント
外旋運動(腕を外にひねる動き)の制限が必須です。
外旋を強くすると再び前方へ引き出される力が働くため、修復部に負担をかけてしまうからです。
医師の経過観察のもと、

鎖骨は、胸骨と肩甲骨を支える“つっかい棒”のような役割を果たします。
転倒時に手をついたり、肩を強く打ったりすると、外力が鎖骨に直接伝わって骨折することがよくあります。
● 鎖骨は何のためにあるのか?
鎖骨の機能を理解すると、骨折した際の治療方針も腑に落ちます。
● 骨折すると“ずれる”理由
鎖骨には複数の筋肉がついており、骨折するとその筋肉の引っ張る力によって骨の端が上下にずれてしまいます。
多くの鎖骨骨折は手術をしない保存的療法が選択されます。
● 保存療法の中心:クラビクルバンド
クラビクルバンド(八の字帯)は、肩を後ろへ引き、胸を開く姿勢を保つための装具です。
鎖骨を良い位置にキープするためには、
クラビクルバンドを使うことで、無理なくその姿勢を維持できるようになります。
肩鎖関節(けんさかんせつ)は、鎖骨の端と肩甲骨の一部(肩峰)が接してできる関節です。
転倒して肩を強く打つと、この部分に強い外力が加わり、関節が持ち上がるようにして脱臼します。
● 原因 — 靭帯の断裂
特に重要なのが **烏口鎖骨靭帯(うこうさこつじんたい)**です。
これが切れると、鎖骨を引き下げている力がなくなり、鎖骨が上に浮き上がったように見えます。
● 治療方針
脱臼のずれ具合によって治療方法が変わります。
手術では、切れた靭帯の代わりに人工靭帯や縫合糸を使って鎖骨を適切な位置に固定します。

肩は、構造が複雑なぶん外傷も多様です。
いずれも外力によって起こりますが、それぞれ原因や治療法、リハビリの注意点が大きく異なります。
肩の外傷は、骨格や靭帯の役割を理解することで、治療の意図やリハビリの必要性がより明確に理解できます。