腹腔鏡がん手術:外科医が解説する「3つの誤解」とは?

腹腔鏡がん手術における3つの誤解

正しい理解で、安心して治療に臨むために

近年、がん治療における手術方法は大きく進歩してきました。その中でも多くの患者さんが耳にする機会が増えたのが「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」です。小さな傷で手術が行えるというイメージがあり、実際、患者さんの身体的負担が軽減されるなど多くのメリットがあります。

日本では約30年前に導入され、当初は胆石症や一部の良性疾患を対象としていましたが、医療技術の進歩によって、現在では大腸がんや胃がん、婦人科系のがん、さらには肝臓がんなど、多くの悪性疾患でも標準的に行われるようになりました。今後も腹腔鏡手術はさらに普及していくことが予想されています。

しかし、その一方で誤解も多く、患者さんが不安を抱いたり、過度な期待を持ってしまうことがあります。今回は、腹腔鏡によるがん手術に関して特に多い「3つの誤解」を丁寧に解説し、正しい理解と安心につながる情報をお届けします。

誤解①:胃カメラのように“傷がない手術”なの?

誤解①:胃カメラのように“傷がない手術”なの?

腹腔鏡手術は「カメラを使って行う手術」と説明されるため、麻酔なしで胃カメラや大腸内視鏡のように体の自然な穴(口や肛門)から器具を入れて行う、とイメージされることがあります。しかし、これは大きな誤解です。

確かに、食道がんや胃がん、大腸がんのごく早期のものでは、内視鏡のみで病変を切除する治療(内視鏡的粘膜切除・内視鏡的粘膜下層剥離など)が行われます。しかしこれは「内視鏡治療」であり、「腹腔鏡手術」とは別のものです。

腹腔鏡手術は必ず全身麻酔下で行われます。
手順としては、お腹に5~12mm程度の小さな穴を数カ所あけ、そこからカメラと手術器具を挿入し、モニターに映し出された映像を見ながら操作していきます。

切除する臓器は、原則としてその穴から体外へ取り出しますが、臓器のサイズが大きい場合には穴を延長して少し大きめに切開することがあります。

つまり、

腹腔鏡手術=傷がまったくない手術

ではなく、

腹腔鏡手術=従来より傷が小さい手術

というのが正しい理解です。

誤解②:腹腔鏡手術は痛くない?

誤解②:腹腔鏡手術は痛くない?

腹腔鏡手術の最大のメリットの一つは「傷が小さく、痛みが比較的少ない」という点です。しかし、決して“無痛”ではありません。

腹腔鏡では皮膚の傷は小さく見えますが、その下の腹膜や組織は、開腹手術とは異なる動かし方で牽引されたり切開されたりするため、実際には見た目以上に広い範囲で痛みが出ることがあります。特に、

  • お腹を広げるために二酸化炭素ガスを入れる
  • 腹膜の切開や牽引が必要になる
  • 器具を挿入する孔(ポート部位)が複数ある

などの影響で痛みが起こるのです。

とはいえ、現代では痛みを抑える工夫が大きく進歩しています。

  • 術中・術後の適切な鎮痛薬の使用
  • 神経ブロックの併用
  • 鎮痛薬の持続投与

などにより、多くの患者さんが「開腹手術に比べて痛みが軽い」と感じるようになっています。

つまり、腹腔鏡でも痛みがゼロではないが、十分にコントロールできるため心配しすぎる必要はない、ということです。

誤解③:腹腔鏡は観察範囲が狭く“取り残し”が多い?

誤解③:腹腔鏡は観察範囲が狭く“取り残し”が多い?

腹腔鏡は小さな穴からカメラを入れて操作するため、「お腹の中があまり見えないのでは?」という不安を持たれることがあります。これは比較的よく聞かれる疑問ですが、結論から言うと これは誤解です。

初期の頃は、確かに「視野が狭く、取り残しにつながるのでは」という懸念がありました。しかしその後、多くの臨床試験が行われ、大腸がんや胃がんを対象とした大規模研究では、

腹腔鏡手術と開腹手術の間で、再発率・生存期間に差はなかった

ことが示されています。

むしろ、腹腔鏡手術には次のような利点があります。

拡大視効果で、肉眼よりよく見える

カメラで拡大された映像を見るため、血管や神経の解剖が肉眼よりも明瞭に確認できます。結果として、繊細な操作や緻密な切離が可能になります。

死角が少なく、深部の観察が容易

自由に角度を変えられるカメラによって、開腹手術では見にくい部分もよく観察できる場合があります。

術野がクリアで視界が安定する

お腹を大きく開ける開腹手術では、臓器同士が干渉して視野が乱れたり、出血が広がり視界が遮られることがあります。腹腔鏡では圧をかけることで出血が抑えられ、クリアな視界を維持しやすいという特徴があります。

このように、腹腔鏡手術は「見えにくい手術」ではなく、「むしろよく見える手術」だという認識が正しく、がん手術としての安全性・有効性も確立されています。

ただし注意点として、腹腔鏡手術は高い技術を要するため、術者の経験や病院の実績によって技術レベルに差がでることは事実です。そのため、可能であれば腹腔鏡手術の症例数が多い病院、いわゆる「ハイボリュームセンター」での手術が推奨されます。

まとめ:誤解を正して、納得できる治療選択を

まとめ:誤解を正して、納得できる治療選択を

腹腔鏡手術は、がん治療における大きな進歩であり、多くの患者さんにとって身体的負担を軽減する選択肢となっています。しかしながら、広く普及した一方で誤解も多く、患者さんの不安や不信感につながる場合もあります。

今回取り上げた3つの誤解をまとめると以下の通りです。

  1. 腹腔鏡手術は胃カメラのような“無傷の手術”ではない
     → ただし傷は従来よりはるかに小さい。
  2. 腹腔鏡でも痛みはある
     → 適切な鎮痛管理により大きく軽減できる。
  3. 腹腔鏡は見えにくく取り残しが多いというのは誤解
     → むしろ開腹以上に視野が良い場合も多く、再発率・生存率に差はない。

腹腔鏡手術は、正しい理解を持てば非常に優れた治療法です。
手術を検討される際は、担当医に手術の方法やメリット・デメリット、病院の実績などを丁寧に確認し、納得したうえで治療に臨むことが大切です。