
がんに効く野菜と聞くと、多くの方がまずニンジンを思い浮かべるのではないでしょうか。とりわけ、ゲルソン療法においてニンジンジュースを大量に摂取することが推奨されているため、その印象が広く浸透しているように思われます。星野式ゲルソン療法でも、ニンジンを中心とした野菜ジュースを日常的に多く取り入れることが勧められており、これを参考に生活に取り入れている方も少なくありません。
では、ニンジンジュースには本当に「がんに効く」という科学的根拠があるのでしょうか。
この疑問を明らかにするため、世界の医学論文を検索できる「PubMed」で carrot juice と cancer をキーワードとして検索したところ、ヒットした論文はわずか36件でした。研究件数としては非常に少なく、人を対象とした臨床試験はほとんど見当たりません。また、ニンジンジュースによってがんが縮小・消失したという症例報告も確認できませんでした。
つまり、ニンジンジュースが「がんに直接効く」とする明確なエビデンスは現時点では存在しないと言えます。
とはいえ、ニンジンには抗酸化作用をもつβカロテンが豊富に含まれていることはよく知られています。実際、乳がん患者を対象に、3週間にわたって新鮮なニンジンジュースを飲んでもらい、酸化ストレスや炎症の変化を測定したランダム化比較試験があります。
その結果、酸化ストレスの指標は改善したものの、CRPなどの炎症マーカーには有意な変化が見られませんでした。つまり、ニンジンジュースが抗酸化作用をもつことは確かですが、それが「がん治療の効果」に直結するという証拠は得られていないのです。
代替補完医療を否定する意図はありません。身体によいと感じる食事を続けることは希望や安心につながり、プラセボ効果すら期待できるかもしれません。しかし、いくつか気をつけるべき点があります。
特にゲルソン療法ではニンジンジュースの摂取量が非常に多く、星野式では1日1.5リットル以上、原法では13杯という大量摂取が推奨されています。がん患者がこれほどの量を毎日飲むことは身体への負担が大きく、また、その分ほかの食事が十分に摂れなくなる可能性があります。
さらに、ニンジンには意外に多くの糖質が含まれており、GI値は80と野菜の中でも高めです。絞ってジュースにすることで食物繊維が取り除かれ、血糖値の急上昇が起こりやすくなります。高血糖に伴いインスリンが分泌されますが、一部のがん種ではインスリンが増殖に関わる可能性が指摘されており、糖尿病を持つ方にとっては特に注意が必要です。
ニンジンを摂取するのであれば、丸ごと食べることをおすすめします。がん患者には食物繊維の摂取が推奨されるため、搾りかすを捨ててしまうジュースよりも、調理してそのまま食べるほうが望ましいと言えるでしょう。
また、βカロテンはニンジンだけでなく、ほうれん草、ピーマン、かぼちゃなどの緑黄色野菜や、みかんなどの果物にも豊富に含まれています。これらをバランスよく摂取することが最も健康的で持続しやすい方法です。
さらに、βカロテンは油と一緒に摂ることで吸収率が高まります。たとえば、沖縄料理の「にんじんしりしり」はニンジンを油で炒めて作るため、効率的な摂取方法と言えるでしょう。
最後に、βカロテンをサプリメントで補うことについて触れておきます。海外の大規模ランダム化比較試験では、サプリメントで大量に摂取すると肺がんのリスクが20〜30%上昇したという報告があります。このことからも、栄養素は食品から自然な形で摂るほうが望ましいと考えられています。

ニンジンは栄養価の高い優れた野菜であり、健康維持に役立つことは確かです。しかし、現時点において「ニンジンジュースががんに効く」という科学的根拠はありません。大量摂取には血糖値上昇や栄養バランスの偏りなどの懸念も伴います。
大切なのは、ニンジンに限らずさまざまな野菜や果物をバランスよく取り、自然な形で栄養を身体に届けること。日々の食事を整えることが、何よりも健やかな生活への近道と言えるでしょう。