「夢のがん治療薬」発見?すべての癌転移に関与するメタドヘリンを阻害する化合物の効果を解説

「夢のがん治療薬」発見は本当なのか?

「夢のがん治療薬」発見は本当なのか?

最近、「ほぼすべてのがんに効く夢の治療薬が見つかった」という、とても刺激的なニュースが流れました。
もし本当なら、がんは近い将来“治る病気”になるのではないかと期待してしまう内容ですが、はたしてこの話はどこまで現実味があるのでしょうか。

今回は、このニュースの元になっている研究論文を参考にしながら、できるだけわかりやすく解説していきます。

■ 話題になったニュースの内容

■ 話題になったニュースの内容

ニュースによると、11月29日にイギリスの科学雑誌「ネイチャー」の姉妹誌である「ネイチャー・キャンサー」に、がん治療につながる“ある物質”についての研究が掲載されたと報じられました。

その物質を見つけたのは、アメリカ・プリンストン大学のイービン・カン教授の研究チームです。
カン教授は、15年以上にわたり「メタドへリン」という体内にあるタンパク質を研究してきました。

このメタドへリンという物質は、乳がんがからだの別の場所へ広がるときに深く関わっていることが以前から知られていました。しかも、乳がんだけでなく、肺がん、大腸がんなど、いろいろながんで同じような役割を持つことがわかってきたのです。

今回の論文では、このメタドへリンの働きを弱める物質を特定することに成功したと書かれており、カン教授らは数年後には人で試す治験を始めたいとコメントしています。
ニュースでは、「がんが死の病でなくなる日が近いかもしれない」と期待を込めた表現が使われていました。

しかし、ニュースだけを読むと“すべてのがんに効く薬”がすぐにでも完成しそうな印象を受けますが、本当にそうなのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

■ 元になった論文でわかったこと

今回の研究は、2021年11月に「ネイチャー・キャンサー」に掲載されたものです。
アメリカのプリンストン大学の研究チームによって行われました。

これまでの研究で、メタドへリンという物質は、乳がんの中でも量が多いタイプほど、病気の進み方が早く、治りにくい傾向があることがわかっていました。
そして、この物質は乳がん以外のがん──肺、大腸、前立腺など──でも見つかっていることが報告されています。

さらにメタドへリンには、がんにとって“都合の良い働き”がいくつもあることも判明しています。

● メタドへリンの主な働き

  1. がん細胞が生き残るのを助ける
  2. がんが別の場所へ広がるのを促す
  3. 抗がん剤の効き目を弱める
  4. がんを攻撃する免疫の働きを邪魔する

もしこの物質の働きを止めることができれば、がんの進行を抑えたり、治療の効果を高めたりできる可能性があります。

そこで今回の研究では、メタドへリンを弱める「C26-A6」という化合物を使い、マウス(動物)の乳がんモデルを用いて実験が行われました。

■ C26-A6の効果とは?

■ C26-A6の効果とは?

研究の結果、C26-A6を使ったマウスでは、次のような効果が見られました。

● がんの成長がゆっくりになった

薬を使わなかったグループと比べると、がんの大きさが小さくなる傾向が見られました。

● 肺に広がるがんの数が大きく減った

マウスでは乳がんが肺に広がることがよく起こりますが、薬を使ったグループではその数が大きく減ったのです。

● 免疫治療の効果が高まった

最近よく使われる“免疫チェックポイント阻害薬”というタイプの薬がありますが、C26-A6を併用することで、その効果が強まることも確認されました。

こうした結果から、「メタドへリンを狙った治療」は将来的にがん治療の新しい道になるかもしれない、という結論が出されました。

■ では、この薬はすぐに使えるのか?

期待が高まる一方で、ここで注意しなければならないポイントがあります。

今回の研究はあくまで動物実験の段階です。
つまり、人での安全性や効果はまだ確かめられていません。

新しい薬が実際に患者さんに使われるようになるまでには、
● 安全性を確かめる試験
● 効果があるかを確かめる試験
● 多くの人で本当に効くかどうかを最終確認する試験
と、いくつもの段階を通る必要があります。

この過程をクリアして世の中に出てくる薬は、残念ながらごくわずかです。
どれだけ動物で良い結果が出ていても、人に使ってみると期待したほどの効果が出ないことは珍しくありません。

そのため、今回の研究成果が「すべてのがんに効く夢の治療薬になる」と断言するのは、まだ時期尚早と言えます。

■ それでも意味のある大切な研究

■ それでも意味のある大切な研究

とはいえ、今回の研究が重要であることは間違いありません。

がんが広がる仕組みを詳しく知ることができれば、それを止める薬を作れる可能性が生まれます。
また、既存の治療をさらに効きやすくする手がかりにもなります。

“メタドへリン”という物質が、いろいろながんの広がりに深く関わっていることがわかったこと、そしてその働きを弱める物質が見つかったことは、がん研究の中でも大きな一歩だと言えるでしょう。

今後の追加研究や人での試験がどう進むのか、大いに期待したいところです。

■ まとめ

・ニュースで話題になった“夢のがん治療薬”は、メタドへリンという物質の働きを弱める化合物に関する研究が元になっている
・マウスの実験では、がんの成長を抑え、広がりを減らし、免疫治療も効きやすくした
・しかし、現時点では動物実験のみで、人への効果はまだわからない
・すぐに実用化される段階ではなく、今後の臨床試験が必要
・それでも、がん治療の未来につながる可能性のある重要な研究である

夢のようなニュースタイトルに心が動かされる一方で、研究はまだスタート地点に立ったばかりです。
期待しつつも、冷静に見守る姿勢が大切だと言えるでしょう。