今回は、私たちの歩行や日常生活を支える「股関節」の仕組みと、高齢者に多く発生する「大腿骨近位部骨折」について詳しく解説します。股関節は普段あまり意識されない部位ですが、けがをすると生活の質に大きな影響を及ぼす大切な関節です。特に高齢化が進む現代では、股関節周囲の骨折は年々増加しており、正しい理解が必要となります。

股関節とは、骨盤と太ももの骨(大腿骨)がつながる関節のことです。大腿骨の最上部は丸い球状をしており、骨盤側の「臼蓋(きゅうがい)」と呼ばれるくぼみに収まっています。いわば“球と受け皿”の組み合わせで、人体の中でも非常に安定した構造をもつ関節です。
関節は「関節包」という袋状の組織に包まれており、内部には関節液が満たされて滑らかな動きを助けています。股関節は球状構造のため、前後左右、内外旋など多方向に動かせるのが特徴で、医療では以下の6つの基本動作に分類されます。
股関節を動かす主な筋肉
股関節の動きは周囲の筋肉が担っています。その中でも特に重要な筋肉をいくつか紹介します。
● 屈曲(足を前にあげる動作)
主に働くのは 腸腰筋(ちょうようきん) です。背骨の前から骨盤内を通り、大腿骨の根元に付着している大きな筋肉で、股関節を曲げる主力となります。
● 伸展(足を後ろに伸ばす動作)
お尻の筋肉の代表である 大殿筋(だいでんきん) が中心となって働きます。姿勢保持にも関わる非常に強力な筋肉です。
● 外転(足を外側へ開く動作)
とても重要なのが 中殿筋(ちゅうでんきん) です。歩行時に骨盤が左右に傾かないよう支える役割があり、加齢で弱くなると歩行の安定性が低下します。
これらの筋肉が適切に機能することで、日常生活の立つ・歩く・座るといった動作がスムーズに行えるのです。

年齢を重ねると骨密度が低下し、わずかな転倒でも骨折が起こりやすくなります。特に多い骨折は以下の4つです。
この中でも、とくに問題となるのが 大腿骨近位部骨折 です。進む高齢化を背景に、その患者数は増え続けています。
10年前の統計でも女性は年間14万人、男性は4万人以上が骨折しており、現在は年間20万人に達すると推測されています。女性の発生率が高い理由は、閉経後のホルモン低下により骨がもろくなるためです。
大腿骨近位部骨折とは
大腿骨は上から順に、
に分かれています。このうち上の3つで起こる骨折を総称して「大腿骨近位部骨折」と呼びます。
骨折は「ずれ(転位)の有無」が重要です。骨折してもずれていない場合は血流が保たれており、骨は生きています。しかし、大きくずれると頸部を通る血管が途絶え、骨頭が壊死してしまうため自然治癒が望めません。
手足の骨折はギプス固定で治ることも多いですが、股関節の骨折はほぼ全例で手術が必要です。その理由は、
など、医学的・社会的な影響が非常に大きいためです。
手術方法は大きく2種類
大腿骨近位部骨折の手術は、主に以下の2つの方法があります。
① 骨接合術(こつせつごうじゅつ)
折れた骨を金属製のスクリューやプレートで固定し、自然治癒を待つ方法です。
② 人工骨頭置換術
壊死の可能性が高い骨頭を切除し、金属製の人工骨頭に置き換える方法です。
高齢者にとっては行動再開が早いという大きな利点があります。

選択した術式によりリハビリは異なります。
◎ 骨接合術後
骨癒合が得られるまで釘への負担を減らすため、約6週間は部分荷重で歩行します。
松葉づえを使い、患側はつま先を軽くつく程度で歩行練習を行います。
◎ 人工骨頭置換術後
翌日からほぼ全体重をかけて歩くことができるため、早期離床が可能です。
筋力の回復や歩行の安定化を目的としたリハビリを行います。
股関節は球状関節という構造上、広い可動域を持ち、歩行や姿勢維持に不可欠な関節です。しかし、加齢とともに骨が弱くなると、大腿骨近位部骨折と呼ばれる重篤な外傷が起こりやすくなります。特に骨頭の血流が途絶えると自然治癒は難しく、ほとんどのケースで手術が必要です。
骨折を早期に適切に治療し、寝たきり期間を作らないことが、その後の人生の質を大きく左右します。ご自身やご家族の健康を守るためにも、股関節のしくみと骨折治療についてぜひ知っておいていただきたいと思います。