
近年、ダイエットといえば炭水化物を控える「糖質制限」が広く注目を集めています。白米を避けるだけの緩やかな制限から、厳格な低糖質食まで方法はさまざまですが、短期的には体重が落ちやすい一方、継続の難しさを感じる人が少なくありません。医学的にも、低炭水化物食は肥満、メタボリックシンドローム、脂質異常症、糖尿病などに一定の効果があるとされ、医師の中には積極的に推奨する人もいます。
一方で、がんとの関連については慎重な検討が必要です。アメリカ人を対象とした大規模研究では、炭水化物の摂取量が最も低いグループで膵がんの発症リスクが約40%低いという報告があり、低糖質食のがん予防効果が議論されてきました。
では、日本人ではどうなのでしょうか。
2021年に医学誌「Cancer Science」に報告された研究では、45~74歳の日本人約9万人が対象となりました。詳細な食事調査をもとに、17年間にわたってがんの発症状況が追跡されています。
結果は、必ずしも糖質制限を支持するものではありませんでした。
この研究から示唆されるのは、炭水化物を大きく減らし、動物性食品に置き換える食生活は、胃がん以外のがんリスクを高める可能性があるという点です。
がんに限らず、「どれほど炭水化物を摂取すれば最も長生きできるか」という問いに答える研究もあります。2018年に医学誌『Lancet』に掲載されたアメリカ人対象のメタアナリシスでは、炭水化物摂取量が多すぎても少なすぎても総死亡リスクが上昇するという結果が出ました。
日本人を対象とした2020年の調査でも同様で、総エネルギーに占める炭水化物の割合が低すぎても高すぎても死亡リスクは高まり、グラフは綺麗なU字型を描きました。
最も死亡リスクが低かったのは、炭水化物が総エネルギーの50〜55%程度の人々でした。
鍵を握るのは食物繊維です。
炭水化物には、糖質と同時に食物繊維が含まれています。精製された糖質の摂りすぎは避けるべきですが、食物繊維は健康維持に不可欠です。
しかし低炭水化物食では食物繊維が不足しがちになり、その結果、腸内環境の悪化や生活習慣病のリスク上昇につながる可能性があります。
さらに、炭水化物を減らした分を動物性食品で補うと、脂肪やたんぱく質の過剰摂取となり、心血管疾患や特定のがんリスクが高まることが指摘されています。

糖質制限は短期的に体重を落とす手段としては一定の効果があります。しかし、研究の蓄積を見ると、長期的に極端な糖質制限を続けることは、むしろ健康に悪影響を及ぼす可能性があると考えられます。
特に、減らした炭水化物の代わりに動物性食品を増やす食事は、がんや心血管疾患のリスクを高める恐れがあります。
もっとも健康的とされるのは、
**総エネルギーの約50%を炭水化物から摂取する「ほどほどの糖質」**であり、これは長寿に寄与する可能性が高いとされています。