手の病気について (Part3)

手の代表的な5つの疾患について

私たちの日常生活において、手は「掴む」「押す」「支える」など多くの役割を果たしており、その機能が損なわれると生活の質に大きな影響を及ぼします。今回は、整形外科領域で頻度が高く、また特徴的な経過をたどる「手の5つの病気」橈骨遠位端骨折、ベネット骨折、関節リウマチ、デュプイトレン拘縮、そしてキーシンベック病について、構造や症状、治療まで丁寧に解説していきます。

① 橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)

① 橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)

橈骨遠位端骨折は、高齢者に多くみられる「四大骨折」のひとつであり、特に女性に多い骨折です。手首を構成する骨のうち、前腕の橈骨(親指側の骨)の最も手首に近い部分が折れる骨折を指します。手は、橈骨・尺骨という2本の骨のうえに、そら豆ほどの大きさの手根骨が2列に並んで構成されており、その複雑な構造によって高い可動性が保たれています。

この骨折は、手をついて転倒した際に発生することが多く、骨粗鬆症を持つ高齢女性では、軽い転倒でも起こり得ます。治療は骨のずれ(転位)の程度によって異なり、ずれが軽度であればギプス固定で自然治癒が期待できます。しかし転位が大きい場合には、手術で骨の位置を整復したうえで、チタン製のプレートとスクリューで固定する「プレート固定術」が行われます。プレートには複数の穴が開いており、釘のようなスクリューで固定することで安定性を確保します。

高齢になるにつれ骨粗鬆症の進行により骨折リスクは急激に上昇します。特に椎体骨折や大腿骨近位部骨折では、80代では10人に1人の割合で発生するとされており、橈骨遠位端骨折も同様に年齢とともに増加します。

② ベネット骨折

ベネット骨折は、親指の付け根にある「中手骨」と「大菱形骨」の関節(CM関節)に起こる骨折で、整形外科の中でも特に有名な骨折です。その理由は、この骨折ではほぼ必ず骨片がずれてしまい、脱臼を伴うためです。

親指のCM関節は「鞍関節」と呼ばれ、非常に広い方向へ動かすことができます。これは、多方向から筋肉や腱が付着しているためであり、その引っ張る力が骨折時に骨を強く移動させてしまう原因となります。このため、ベネット骨折ではギプス固定のみで整復を維持することが難しく、多くの場合手術が選択されます。手術は、ずれた骨片を正しい位置に戻し、ネジ(スクリュー)で固定する方法が一般的です。

③ 関節リウマチによる手の障害

③ 関節リウマチによる手の障害

関節リウマチは日本で約100万人が罹患しているといわれる自己免疫疾患です。加齢による老化とは異なり、関節の炎症が全身で進行するため、放置すると関節破壊や変形をきたし、内臓にも影響を及ぼすことがあります。特に手指の関節はリウマチの初期から障害が現れやすく、日常生活に支障が出やすい部位です。

【1】尺側伸筋腱断裂

リウマチによって手首の小指側の骨が変形すると、そのすぐ近くを通る「伸筋腱」(指を伸ばす腱)が擦り切れて突然断裂してしまうことがあります。外傷はなく、ある日突然、指が伸ばせなくなることで気づかれます。腱は変形した骨による摩擦や炎症によって弱くなり、容易に断裂してしまいます。

治療では、断裂した腱を縫合しますが、損傷が大きい場合は縫い合わせることが困難なため、別の腱を移行・移植して補う手術が必要になります。術後はリハビリが不可欠です。

【2】指関節の変形

リウマチが進行すると、MP関節(指の付け根)を中心に関節の腫れや変形が生じ、指が小指側へ傾く「尺側偏位が典型的にみられます。また、親指がZ字形に変形する「Z変形」など、特徴的な変形が現れるため、手を見るだけで診断の目安になるほどです。これらは、長期にわたる関節炎により関節包や靭帯が緩み、関節がずれたり脱臼したりすることが原因です。

④ デュプイトレン拘縮(こうしゅく)

デュプイトレン拘縮は比較的珍しい疾患ですが、高齢男性や糖尿病を持つ方に多くみられます。特徴として、指を曲げることはできるのに、伸ばすことができなくなる点が挙げられます。これは、指を動かす腱そのものには異常がないものの、手のひらにある「腱膜」が硬く縮み、指を引き込むように拘縮を起こすためです。

特に小指や薬指に多く皮膚の下に硬いコブのような隆起が生じ、その線維が縮むことで指が伸びなくなります。治療は、硬くなった腱膜を手術で切除する方法が一般的ですが、完全に元のように指の可動域を取り戻すことは難しい場合があります。それだけ治療が難しい疾患といえます。

⑤ キーシンベック病(キーンベック病)

⑤ キーシンベック病(キーンベック病)

キーシンベック病は、手首の中心にある8つの手根骨のうち「月状骨」に血流障害が起こり、骨が壊死・変形する病気です。手首を酷使する職業の人や、中年以降の女性に多いとされていますが、近年は症例数が減少しています。

かつては、ジャックハンマーなど強い振動工具を使う職業の方に多くみられました。強い衝撃を繰り返し受けることで、月状骨の血流が低下し、栄養不足となって壊死に至るためです。進行すると月状骨がつぶれて小さく変形し、さらに周囲の骨まで変形が及びます

診断はX線やMRIで比較的容易に行えます。治療としては、壊死した月状骨を摘出し、その空間に腱や筋膜を詰めてクッションとする手術が行われることがあります。骨が1つ減っても、手首は複数の骨で構成されているため、意外にも機能はある程度保たれます。

まとめ

手の疾患は、日常生活の動作に直結するため、わずかな痛みや違和感でも生活の質に大きな影響を与えます。今回ご紹介した5つの病気は、いずれも早期診断と適切な治療が重要であり、特に骨粗鬆症やリウマチなど、背景に慢性的な疾患がある場合には定期的な医療管理が不可欠です。

それぞれの病気の特徴を理解することで、早めの受診や相談につながり、より良い治療結果を得ることができます。手の痛みや不調が気になる際は、無理をせず専門医に相談されることをお勧めします。