私たちは日常生活の中で、指を曲げたり伸ばしたりする動作を当たり前のように行っています。スマートフォンの操作、パソコンのタイピング、ペンを握る動作、何かを掴む動作——これらすべては指の微細な動きによって成り立っています。しかし、当たり前すぎて意識しませんが、「そもそも指はなぜ曲がるのか?」と聞かれると、はっきり答えられる人は多くありません。
多くの人が誤解しているのは、「指を曲げる筋肉は指の中にある」と思い込んでいる点です。実は、指の中には筋肉はほとんど存在しません。私たちの指を動かしているのは、手首よりもさらに腕の近く、つまり前腕の筋肉なのです。本記事では、指を曲げる動作の中心となる筋肉「浅指屈筋(せんしくっきん)」と「深指屈筋(しんしくっきん)」の働きや構造について詳しく解説していきます。

指を曲げる・伸ばすという複雑で繊細な動作は、私たちの手だけで行われているわけではありません。実は、動作の源になる筋肉の多くは前腕に配置され、そこから長い腱が伸びて指の骨に接続しています。
指は細かい動作が求められるため、指そのものに大きな筋肉を配置すると、その動きは制限されてしまいます。だからこそ、“動力源”である筋肉は前腕に集約され、指先には細い腱だけが通されているのです。これによって、指は細く軽く、そして精密な動きが可能になります。
この「前腕の筋肉が指を曲げる」という仕組みを理解すると、たとえば力を込めて握るときに、前腕の内側がパンパンに張ってくる理由も納得できるでしょう。
まず紹介したいのは 浅指屈筋(Flexor Digitorum Superficialis) です。
● 浅指屈筋が担当するのは“第二関節”の動き
医学では、指の関節を以下のように呼びます。
浅指屈筋が担当するのは PIP関節、つまり第二関節を曲げる動きです。浅指屈筋から伸びる腱は途中で二股に分かれ、指の第二関節付近の骨に付着します。そのため、浅指屈筋が収縮すると、指の中央部分が曲がるわけです。
● 浅指屈筋の位置と役割
浅指屈筋の筋腹(筋肉の中心部分)は前腕の中央からやや肘寄りにあり、非常に広い範囲で橈骨・尺骨(前腕の二本の骨)に付着しています。
そこから細く長い腱が手首を越え、手のひら側を通って指へ到達します。
特徴として、
という構造を持ちます。これにより、4本の指をある程度独立して曲げることが可能になり、器用な指の動きが実現します。

次に重要なのが 深指屈筋(Flexor Digitorum Profundus) です。
● 深指屈筋が動かすのは“指の先端”
浅指屈筋は第二関節(PIP)を曲げましたが、深指屈筋はさらに先、指の第一関節である DIP関節 を曲げる役割を担います。
腱は指の最も先端まで伸びていて、一番細かく繊細な動きを制御しています。
● “深い場所”にあるから深指屈筋
深指屈筋は浅指屈筋よりもさらに深い層に位置し、主に尺骨に付着しています。筋腹は前腕の奥の方にあり、腱が手首を通過する際、浅指屈筋の腱の下を通って進みます。
● 浅指屈筋と深指屈筋は“交差して走る”
ここが指の構造の驚くべきところです。
この巧妙な構造により、
という高度な機能が成立しています。解剖学的な美しさすら感じる構造と言えるでしょう。
人差し指から小指までの4本には、
の 2本の腱 が走っています。
つまり4本の指×2本=合計8本の腱が、手首付近を縦に並んで通過していることになります。手首の内側を触ると、何本もの“細い糸”が通っているような印象があるのはこのためです。
この腱が滑らかに動くことで、私たちは
といった精密な作業が実現できています。

力を込めて握ったり、長時間の作業を行うと、手よりも先に前腕が疲れてくる経験はないでしょうか。
これはまさに、指を動かす筋肉の本体が前腕にあることの証拠です。
たとえば、
といった動作では、前腕の浅指屈筋・深指屈筋がフル稼働し、疲労していきます。逆にいうと、前腕のストレッチやマッサージを行うと指が軽くなるのも、この構造を理解すれば納得できるでしょう。
浅指屈筋と深指屈筋の構造は、私たちの指がいかに計算され尽くした仕組みで動いているかを教えてくれます。
これらすべてが合わさることで、人間特有の“精密な手作業能力”が完成しています。
私たちは普段、何の気なしに指を曲げたり伸ばしたりしています。しかし、その裏には、浅指屈筋と深指屈筋という2つの筋肉が、見事な連携によって動作を支えてくれているのです。
この精密な構造によって、私たちは日々の生活で繊細な作業を簡単にこなしているわけです。