腕を曲げたとき、肘のあたりにふくらむ「力こぶ」。
日常生活の中でもよく目にするこのふくらみは、
私たちの体の中でとても有名な筋肉、
上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)
がつくり出しています。
トレーニングでも頻繁に取り上げられる筋肉ですが、
その構造や働きは意外と複雑で、
医学的にもとても興味深い特徴を持っています。
今回は、この上腕二頭筋がどのような形をしていて、
どこに付着し、どんな役割を果たしているのかを、
できるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。

上腕二頭筋の名称には「二頭」という言葉が使われています。
これは、
筋肉が上のほうで二つの“頭(起始部)”に分かれている
ことを意味します。
一般的に“力こぶの筋肉”と呼ばれますが、その構造は非常に
ユニークで、上部では二手に分かれ、下部では一つにまとまり、
最終的に腱となって前腕の骨へつながるという特徴を持っています。
肘を曲げる動作はもちろん、前腕を回す(回外)動作にも
深く関わっており、日常生活やスポーツの場面で欠かせない働きを担っています。
通常、身体の外側から見えるのは皮膚の表面だけですが、
筋肉の学習アプリや3Dモデルでは、皮膚・脂肪・浅層の筋肉を
段階的に“消して”内部を観察することができます。
皮膚を取り除いていくと、上腕の前面に位置する大きな紡錘形の筋肉が現れます。
この黄色っぽく強調して表示される筋肉こそが、上腕二頭筋です。
腕の前側ほぼ全面を覆っているため、腕を曲げるとすぐに
目立つ形となり、トレーニングのターゲットとしても認識しやすい筋肉です。
● 長頭(ちょうとう)
長頭はその名の通り、細長い形をした筋頭で、肩の関節の中を
通るように走行している点が最大の特徴です。
このように、長頭の走行は複雑でデリケートなため、スポーツ選手や重労働をする人などでは、
この細い腱の部分が炎症を起こしたり、まれに断裂することがあります。
短頭は肩甲骨の前方にある
烏口突起(うこうとっき)
という小さな突起部分に付着します。
長頭ほど複雑な走行はしませんが、太くしっかりした構造を持ち、
上腕二頭筋の主力として働いています。

肩甲骨から出てきた長頭と短頭は、上腕の途中で合流し、
ひとつの太い腱へと変化します。
この腱は前腕にある2本の骨のうち、
橈骨(とうこつ)
という外側の骨に付着します。
つまり上腕二頭筋は、
という、とても興味深い構造をしているのです。
上腕二頭筋の主な働きは以下の通りです。
1)肘関節の屈曲(肘を曲げる)
力こぶができる代表的な動作です。物を持ち上げたり、
顔に手を近づけるときなど、日常のあらゆる動きで使われます。
2)前腕の回外(前腕を外にねじる)
例えば、ドアノブを回したり、手のひらを上向きに返す動きなどに関与しています。
3)肩関節の安定化
特に長頭が肩の関節内を走行していることから、
肩関節の前方の安定に間接的に寄与しています。
興味深いことに、上腕二頭筋の筋力の多くは
短頭が担っているとされています。
一般的な説明としては、
長頭が約2割、短頭が約8割の筋力を担う
という割合がよく紹介されます。
長頭は細く、関節内を通って複雑な走行をしているため、大きな力を
発揮するよりも、肩関節の安定に役立っていると考えられています。
一方、短頭は太くしっかりしており、主力として肘を曲げる動作をサポートしています。

スポーツや重労働で腕をよく使う人では、長頭腱が摩擦や牽引によって炎症を起こし、
痛みが出ることがあります。更に負荷が強い場合には、
細い腱が断裂してしまうことがあります。
「腱が切れたら腕は動かなくなるのでは……?」
と思うかもしれませんが、肘を曲げる力の大部分は短頭が担っているため、
長頭が切れても日常生活では大きな支障がない
とされています。
しかし、競技スポーツを行う人や肉体労働が多い人では力不足を感じるため、
必要に応じて腱をつなぐ手術が検討されることもあります。
上腕二頭筋は「力こぶの筋肉」というシンプルなイメージとは裏腹に、
構造は非常に複雑で、肩から肘にかけて巧妙に設計されています。
二つの筋頭があり、肩甲骨の異なる場所から始まり、肘の直前で
合流するという独特の構造は、まさに人体の精密さを感じさせるものです。
肘を曲げたり、前腕をひねったりする動作は、私たちが毎日無意識に行っているものです。
しかし、その裏側で上腕二頭筋がどのように働き、どのようなバランスで力を
発揮しているのかを知ることで、身体の構造がより立体的に理解できるようになります。
トレーニングに取り組んでいる方はもちろん、スポーツ愛好家やケガの
予防に関心がある方にも、上腕二頭筋の知識は大きく役立つはずです。