「筋トレ」でがん生存率アップ:がん患者さんに筋力トレーニングをすすめる理由とメニュー

筋トレでがんの生存率が上がる? “筋肉”が支える治療の力

がんの治療がうまく進み、元気に長く過ごしていくためには、実にさまざまな要素が関わっています。治療方法の選択、生活習慣、本人の体力や気持ちの持ち方など、多くの要因が複雑に影響し合います。
そのなかで意外に思われるかもしれませんが、治療の成功を大きく左右する“鍵”のひとつが、患者さん自身の「筋肉」です。

私が外来で初めてがんの患者さんを診察するとき、必ず確認する部分があります。それが「ふくらはぎ」です。ふくらはぎは体の中でも筋肉量が表れやすい場所で、触れると筋肉の状態がわかりやすいのです。

経験的にも、ふくらはぎの筋肉がしっかりしている患者さんは、手術を無事に乗り切り、治療が順調に進みやすい傾向があります。一方で、ふくらはぎが細く力の入りにくい方は、手術後にさまざまなトラブルが起きやすく、その後の経過も安定しにくいことが少なくありません。

こうした傾向は、単なる経験談ではなく、多くの研究によって確かめられています。筋肉がある人ほど手術後の回復が早く、治療の効果も出やすい。その結果、長く元気に過ごせる可能性が高くなるという報告が数多くあるのです。

逆に、治療の途中で筋肉が減ってしまうと、薬が効きにくくなってしまったり、副作用が強く出てしまったりすることもあります。筋肉が落ちることで体力が低下し、治療そのものを続けにくくなる場合もあります。

つまり、がんと診断されてからの過ごし方のなかで、「筋肉を保つこと」はとても大切な要素なのです。

■がん治療中は筋肉が減りやすい

■がん治療中は筋肉が減りやすい

とはいえ、がんの治療中というのは、どうしても筋肉が落ちやすい時期でもあります。治療の副作用で体がだるくなったり食欲が落ちたり、ときにはベッドで横になる時間が増えてしまうこともあるでしょう。
こうした理由で、多くの患者さんは気づかないうちに筋肉が細っていきます。

そこで重要になるのが「筋力トレーニング」、つまり筋トレです。

筋トレというと、「がん治療中にそんなことできるの?」と驚かれる方もいます。ところが近年の研究では、適度な筋トレはむしろ治療を助け、体を守る働きがあることが続々と明らかになってきているのです。

■筋トレの効果は想像以上

■筋トレの効果は想像以上

たとえば、手術を控えた患者さんが、手術前に軽い筋トレや運動を取り入れることで、手術後の回復が早く、トラブルが減るという研究があります。

また、抗がん剤治療中に筋トレを行うと、副作用が軽くなり、治療が継続しやすいという結果も出ています。

さらに驚くべきことに、筋トレをすることで生存期間、つまり「どれだけ長く生きられるか」にも良い影響があるという研究データがあるのです。

アメリカで行われた大規模な調査では、がんと診断された2,863人を対象に、週に1回以上の筋トレ(ウエイトトレーニングなど)をしているかを調べ、その後の経過を追跡しました。

その結果、筋トレをしている人は、まったくしていない人に比べて、

  • すべての原因での死亡リスクが33%も低下した

という、非常に大きな差が見られました。

つまり、「筋トレをしているがんサバイバーは長生きしやすい」と科学的にも示されたのです。

■では、どんな筋トレをどれくらいやればいいのか?

実は、がん患者さんに向けて「この方法が正解」という決まりはありません。それぞれの人が抱えている病気の種類や治療内容、体力の違いがあるため、適した筋トレも人によって変わってきます。

ただし、ひとつの目安としてよく使われるのが、アメリカがん協会がまとめた「がんサバイバーのための栄養と運動ガイドライン」です。

そこでは、

  • 週に150分以上の運動
  • 週に2回以上の筋トレ

が推奨されています。

また、筋トレは「軽すぎる負荷では効果が出にくい」とされています。「少しきついな」と感じるくらいの負荷で行うほうが、筋肉にはしっかり刺激が入ります。

頻度としては、

  • 週に2〜3回

が最も続けやすく、効果も出やすいと考えられています。

■自宅でできるかんたん筋トレ3選

ここでは、特別な器具がなくても自宅で取り組める筋トレを3つ紹介します。

①腕立て伏せ(上半身を鍛える)

胸・肩・腕をまとめて鍛えられます。
10~20回を目標に、3セット行うと理想的です。

きつい場合は、膝を床についた「膝つき腕立て伏せ」にすれば、負荷を軽くできます。筋トレが初めての方でも無理なく続けられます。

②フロントブリッジ(プランク)(お腹まわりを強くする)

手と足で体を支え、まっすぐの姿勢を保つ運動です。見た目以上にお腹と背中に効きます。
まずは20〜30秒続けることを目標にし、慣れてきたら少しずつ時間を延ばしていきましょう。

③スクワット(下半身全体を鍛える)

下半身の筋肉を広く鍛える運動で、最も効果が高いと言われます。
20回×3セットを目安に行ってみてください。

深くしゃがむのが理想ですが、難しい方は椅子を使い、「椅子から立ち上がる動作」を繰り返す方法でも十分です。

まずは、この3つから始めてみるだけでも、筋肉はしっかり刺激されます。慣れてきたら、自分が鍛えたい部分に応じてメニューを追加していくのも良いでしょう。

■まとめ:筋肉は“治療を支える力”

■まとめ:筋肉は“治療を支える力”

がんの治療で筋肉が意外なほど重要な役割を果たしていることは、医学だけでなく、多くの患者さんの経験からも実感されています。

筋肉があることで、

  • 手術や治療を乗り越えやすくなる
  • 副作用が軽くなる
  • 治療を継続しやすくなる
  • 長生きできる可能性が高まる

といった多くのメリットがあります。

「治療中だから運動は控えたほうがいいのでは?」と思う方もいますが、実際には、体を動かすことこそが治療を支える力になるのです。

もちろん無理は禁物ですが、自分のペースで続けられる筋トレを取り入れることで、治療の手助けになり、より良い日々につながる可能性があります。

筋肉は、あなたの体を支えるだけでなく、未来を支える力にもなるのです。