
「がんの最後はどのように訪れるのか」。
この問いは誰もが一度は考えるテーマかもしれません。がんという病気は特別なもののように思われがちですが、私たちは誰もがいずれ「死」を迎えます。がんの場合、その過程が比較的明確に観察されているため、どういった経過をたどるのかを知ることは、恐怖を和らげ、残された時間をより良く生きるための手がかりにもなります。
がんは、最初はひとつの細胞の異常から始まります。
その細胞が増殖し、腫瘍となり、やがて周囲の組織やリンパ節、他の臓器へと転移していきます。治療を行っても進行が止められない場合、やがて全身の機能が限界を迎え、死に至ります。
しかし、「がんになるとすぐに死んでしまう」という印象は誤解です。
実際には、がんが発生してから腫瘍として確認できるようになるまでには約10年、さらに転移を経て生命に関わる状態に至るまでには、さらに10年かかるという研究もあります。つまり、がんはゆっくりとした経過をたどることが多いのです。

がん患者さんが亡くなる直接の原因には、いくつかのパターンがあります。代表的なものを順に見ていきましょう。
① 悪液質(カヘキシア)による衰弱
もっとも多いのが「悪液質(あくえきしつ)」と呼ばれる状態です。
進行がんによって代謝が大きく乱れ、体は栄養を取り込めなくなり、筋肉や脂肪が急速に減っていきます。
飢餓状態のように痩せてしまい、力が出ず、日常生活を送ることが難しくなっていきます。
特に消化器系のがんに多く、最終的には全身の衰弱により穏やかに命が尽きます。
② 感染症
がんの進行や栄養障害によって免疫力が低下すると、肺炎や腸炎、敗血症などの感染症が起こりやすくなります。
特に高齢の方では、飲み込みが難しくなる「嚥下障害」によって誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
抗生物質で治療することもありますが、体力が落ちている場合には、感染症がきっかけで亡くなることもあります。
③ 臓器不全
がんが肺や肝臓など生命維持に不可欠な臓器に転移すると、その臓器の働きが失われていきます。
肺転移が進むと呼吸ができなくなり、胸水がたまることで呼吸不全に至ります。
肝臓が侵されると、黄疸が出て肝不全を起こすことがあります。
これらが重なると「多臓器不全」と呼ばれる状態となり、生命を保てなくなります。
④ 治療の合併症
がんそのものではなく、治療によって亡くなることもあります。
手術、抗がん剤、放射線治療はいずれも体に大きな負担を与えます。
たとえば膵臓がんの大手術では、手術関連の死亡率が3%前後と報告されています。
まれですが、抗がん剤や放射線の副作用によって重篤な感染症や臓器障害が起こることもあります。
⑤ オンコロジカル・エマージェンシー(がん関連の緊急事態)
これは、がんの進行や治療が原因で突然命を脅かす状態になることを指します。
代表的なものには、
⑥ がん以外の病気
意外に思われるかもしれませんが、がん患者さんが必ずしもがんで亡くなるわけではありません。
進行が遅い前立腺がんや甲状腺がんでは、がんが原因となる前に、心筋梗塞や脳卒中などの別の病気で亡くなるケースも多く見られます。

このように、がんによる死の経過はさまざまです。
急変するケースもありますが、多くの場合は悪液質など、時間をかけてゆっくりと衰弱していく過程をたどります。
つまり、「進行がんだからもうすぐ死ぬ」というわけではないのです。
大切なのは、栄養状態や体力をできるだけ保ち、生活の質を維持することです。
適度な運動、十分な食事、心の安定を心がけることで、がんがあっても長く穏やかに生きることができます。
がんの「死に方」を知るということは、単に恐れるためではなく、「どう生きるか」を考えるきっかけにもなります。
医療の力や周囲の支えを借りながら、自分らしい時間を大切に過ごす。
それが、がんとともに生きるうえでの本当の希望なのかもしれません。