【SIADHの病態と治療について】 脳疾患で多い?看護師が気をつけないといけないことは?

 SIADH(Syndrome of Inappropriate Secretion of Antidiuretic Hormone/抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)は、抗利尿ホルモンであるバソプレシンが過剰に分泌されることによって体内の水分バランスが崩れ、低ナトリウム血症を引き起こす病態です。集中治療領域や内科・神経科で遭遇することが多く、適切な管理が求められる疾患です。

 本記事では、SIADHの病態、症状、診断基準、治療、看護師が注意すべきポイントについて解説します。

SIADHの病態:抗利尿ホルモン(バソプレシン)の役割と異常

SIADHの病態:抗利尿ホルモン(バソプレシン)の役割と異常

 バソプレシンは下垂体後葉から分泌され、腎臓での水分再吸収を促進するホルモンです。通常は血液中のナトリウム濃度や体液量に応じて分泌量が調節され、尿量を調整して体内の水分バランスを維持しています。しかし、SIADHではバソプレシンが過剰に分泌されるため、以下のようなメカニズムで低ナトリウム血症が発生します。

  1. 過剰な水分再吸収
    バソプレシンが腎臓に作用し、本来排出されるべき水分が再吸収されるため、血液が希釈されます。
  2. 低ナトリウム血症の進行
    血液中の水分量が増加する一方で、ナトリウム濃度は低下します。この際、ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の分泌やRAA系(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)の抑制などが代償的に働きますが、完全には補正されません。
  3. 症状の出現
    低ナトリウム血症により、神経系を中心とした症状が現れるようになります。

SIADHの原因

SIADHの原因は多岐にわたりますが、大きく脳、腫瘍、薬剤、その他の疾患に分けられます。

  1. 脳疾患
     • 脳腫瘍
     • クモ膜下出血
     • 頭部外傷
     • 髄膜炎、脳炎
     • ギランバレー症候群
     脳疾患が原因の場合、下垂体後葉のホルモン調節機能が破綻しやすいため、SIADHを引き起こすリスクが高まります。
  2. 腫瘍
     • 小細胞肺がん
     • 前立腺がん
     • 膵臓がん
     腫瘍細胞がバソプレシンを異所性に分泌することで発症することがあります。
  3. 薬剤
     • 抗うつ薬(SSRI)
     • 抗てんかん薬
     • 抗がん剤
     • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
     これらの薬剤がバソプレシンの分泌を促進する場合があります。
  4. その他の疾患
     • 肺炎
     • 気管支喘息
     肺疾患がバソプレシンの分泌を異常に刺激することも知られています。

SIADHの症状

 SIADHの主な症状は、低ナトリウム血症に伴うものです。これらの症状は、ナトリウム濃度の低下速度や程度に応じて現れます。

軽度:頭痛、倦怠感、吐き気
中等度:意識障害、嘔吐、筋けいれん
重度:痙攣発作、昏睡

※特に急激なナトリウム濃度の低下は、痙攣や脳浮腫などの重篤な症状を引き起こすため、注意が必要です。

SIADHの診断基準

以下の基準に基づき、SIADHが診断されます。
 • 血清ナトリウム濃度:135 mEq/L未満
 • 血漿浸透圧:280 mOsm/kg未満
 • 尿浸透圧:100 mOsm/kg以上
 • 尿中ナトリウム濃度:20 mEq/L以上
 • 腎機能、甲状腺機能、副腎皮質機能が正常であること
原因不明の低ナトリウム血症が認められる場合、SIADHを疑う必要があります。

治療法

治療法

SIADHの治療は、原因疾患の優先的な治療とナトリウム濃度の適切な補正が基本となります。

1.原因疾患の治療
 • 脳腫瘍やクモ膜下出血の場合、外科的治療や内科的管理を行います。
 • 腫瘍性の場合、化学療法や放射線治療が必要です。

2.ナトリウム濃度の補正
 • 水分摂取制限:水分摂取量を1日500~1000mlに制限し、低ナトリウム血症の進行を防ぎます。
 • 高張食塩水の投与:ナトリウム濃度が著しく低い場合には、慎重に高張食塩水を点滴します。ただし、補正速度が速すぎると橋中心髄鞘崩壊症(CPM)などの神経障害を引き起こすリスクがあるため、ゆっくりと行う必要があります。
 • 薬物療法:デメクロサイクリンやバソプレシン拮抗薬(トルバプタンなど)が使用されることがあります。

看護師が注意すべきポイント

SIADHの患者さんを看護する際には、以下の点に注意が必要です。

  1. 採血データの確認
    • 血清ナトリウム濃度や血漿浸透圧の変動を定期的に確認します。
    • 補正速度が適切であるかを医師と連携して管理します。
  2. 水分管理
    • 水分摂取制限が指示されている場合、患者さんの水分摂取量を厳密に管理します。
    • 「喉の渇き」への対応として、うがいや少量の水分補給を提案することが有効です。
  3. 神経症状の観察
    • 頭痛、嘔吐、意識レベルの低下、痙攣などの神経症状がないかを常に観察します。
    • 症状が進行している場合には、直ちに医師へ報告します。
  4. 患者さんへの説明
    • 水分制限の重要性や治療方針について、わかりやすく説明します。
    • 患者さんの不安を軽減するために、こまめなコミュニケーションを心がけます。

まとめ

 • SIADHは、バソプレシンの過剰分泌によって引き起こされる低ナトリウム血症を特徴とする病態です。
 • 原因疾患の治療と適切なナトリウム補正が重要であり、水分管理や神経症状の観察が看護師の役割として求められます。
 • 特徴的な症状が少ないため、患者さんの全身状態や背景疾患を把握し、異常の早期発見に努めることが大切です。

看護師として、SIADHの病態を理解し、適切なケアを提供することで患者さんの安全と治療効果を最大化できるよう努めましょう。