
インフルエンザの予防接種が始まる季節になると、外来に通っているがん患者さんから「接種したほうがいいのでしょうか?」という質問をよくいただきます。今年は新型コロナの流行もあり、例年以上にワクチンの重要性が注目されています。その一方で、「副作用は大丈夫?」「治療中でも効果があるの?」といった不安を抱く人も多いのではないでしょうか。
結論を先にお伝えすると、がんの治療中であってもインフルエンザワクチンは安全で、感染や重症化を防ぐ効果が期待できるため、基本的には接種がすすめられています。
信頼性の高い情報を提供している「国立がん研究センター がん情報サービス」でも、がん治療中の方への接種を推奨しています。
今回は、がん患者さんがインフルエンザワクチンを受けるべき理由、安全性、そして接種のタイミングについて、できるだけわかりやすく解説します。
まず気になるのは「本当に効くの?」という点だと思います。
がんの治療を受けていると免疫力が下がることがあり、「ワクチンを打っても意味がないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、治療中の方でも一定の効果があることが研究から示されています。
たとえば、抗がん剤治療を受けている進行した大腸がんの患者さん1225人を調べた研究があります。全体の4割がワクチンを接種しており、残りの6割は接種していませんでした。この2つのグループを比べたところ、
という結果になっていました。
インフルエンザにかかってしまうと、体力低下や合併症のリスクが高まり、治療が中断されてしまうことがあるため、これはとても大切なポイントです。また、複数の条件を整理して比べる方法でも、ワクチンを接種した人はその後1年間に亡くなる人の割合が12%低かったと報告されています。
つまり、インフルエンザワクチンは、がん治療中であっても感染症を防ぐだけでなく、治療を続けやすくするという点でも意味があるのです。
さらに別の大規模な調査では、固形がん(乳がん・大腸がん・肺がんなど)の患者さんではワクチンの効果が比較的高く、治療中であっても有効性は保たれていることがわかっています。一方で、血液のがん(白血病、リンパ腫など)では効果がやや低くなりますが、それでも「まったく効果がない」というわけではありません。
このことから、がんの種類によって効果に違いはあるものの、インフルエンザワクチンはがん患者さんにも基本的におすすめできるという結論になります。
次に気になるのは「副作用が重くならない?」という点でしょう。
インフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」といって、ウイルスの働きを完全に失わせた成分を使っています。そのため、ワクチンを受けたことでインフルエンザにかかることはありません。
がん治療中であっても、基本的な安全性は健康な人と変わりません。これまでの報告でも、がん患者さんに特別な重い副作用が増えたというデータはほぼありません。
また、最近は「免疫チェックポイント阻害薬」という免疫を活性化する治療を行う人も増えています。この薬は免疫の働きを強めるため、ワクチンの副作用が強くなるのでは…?と不安に思われることもあります。
しかし、この薬で治療中の肺がん患者さんを調べた研究では、
という結果になっています。
つまり、抗がん剤治療中でも、免疫の薬を使っていても、インフルエンザワクチンは安全に接種できると考えられています。
インフルエンザワクチンを受けると、体の中に「抗体」と呼ばれる防御力ができるまでに1〜2週間ほどかかります。
インフルエンザの流行は例年12月頃から始まり、1〜3月にピークを迎えるため、遅くとも11月末までには接種を済ませておくのが望ましいです。
特に今年のように感染症が広がりやすい状況では、早めの接種がおすすめです。
では、がんの治療中の方はどうすればよいでしょうか?
ただし、治療の内容や体調は人によって異なります。副作用の出方にも個人差がありますので、接種のタイミングは必ず主治医と相談して決めてください。
最後に大切なことですが、ワクチンを受けたからといってインフルエンザを完全に予防できるわけではありません。ワクチンは「かかりにくくする」「重くなるのを防ぐ」ためのものです。
特に体力が落ちやすい冬の時期は、
といった基本的な対策がとても重要です。

がんの治療を続けながら冬の感染症を乗り越えるためには、予防接種が大きな助けとなります。体調のこと、治療の予定、気になることは、遠慮なく主治医に相談しながら、安心して冬を迎えていただければと思います。