
最新研究から考える“免疫低下”の真相
新型コロナウイルスのワクチンに関しては、SNSを中心にさまざまな情報が拡散しています。その中でも特に不安を呼んでいるのが、「ワクチンを繰り返し接種すると免疫が弱まり、急速に進行する“ターボがん”が増えるのではないか」という主張です。
しかし、このような影響を確かめるためには、実際の人を対象にした科学的な研究が不可欠です。今回は、ワクチン接種が免疫にどのような変化をもたらすのかを長期間にわたり詳しく調査した、ミラノ大学の研究論文を紹介します。
その前に、免疫の仕組みを正しく理解するため、「自然免疫」と「獲得免疫」について整理しておきましょう。
生まれつき備わっている防御システムで、侵入した異物に対して即座に反応します。
なかでも重要なのが NK(ナチュラルキラー)細胞 です。血液中を監視し、細菌・ウイルス・がん細胞をいち早く察知して攻撃します。
自然免疫は「スピード重視」で、相手を選ばず幅広く対応できるのが特徴です。
生まれてから少しずつ学習する免疫システムです。
代表的なのは
で、ワクチン接種の目的はこの獲得免疫を強化することにあります。
獲得免疫は自然免疫に比べて反応は遅いですが、「一度出会った敵を記憶し、次に出会ったときに素早く正確に攻撃できる」という特徴があります。
つまり、
ワクチン=獲得免疫の学習装置
と言えます。
自然免疫と獲得免疫はどちらも欠かせない存在であり、互いに協力しあって体を守っています。
自然免疫の代表であるNK細胞は、細胞内で異常が起きた細胞を素早く察知し、
などの物質を放出して細胞を破壊します。
この働きはウイルスだけでなく、日々発生する「がんの芽」を排除するためにも極めて重要です。
そのため、もしワクチンの繰り返し接種がNK細胞を弱めるのであれば、「ターボがん」という説にもある程度の根拠が生まれます。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?

今回紹介する研究は、2022年8月に Frontiers in Immunology(インパクトファクター 7.5)に掲載されたもので、ファイザー社製mRNAワクチンを複数回接種した後の免疫機能の変化を長期間にわたり観察したものです。
● 研究対象
34〜56歳の医療従事者 58名(全員健康)
● 免疫測定タイミング
初回接種前から、
まで、1年以上の長期間にわたって免疫機能を測定しました。
研究で明らかになった結論は非常に明確で、
ワクチン接種はNK細胞の働きを弱めるのではなく、活性型NK細胞を長期間にわたり増加させていた
というものでした。
具体的には、
● 活性型NK細胞がワクチン接種後に増加
がん細胞やウイルス細胞を攻撃しやすい状態が強まっていました。
● 活性化は半年以上持続
一時的な変化ではなく、長期間にわたる免疫強化が認められています。
● ブースター接種でさらに活性化
3回目接種後に、NK細胞の攻撃力はさらに上昇。
● スパイク蛋白での刺激に強く反応
グランザイムやパーフォリンを分泌するNK細胞が増加していました。
これは、
ワクチンは獲得免疫(抗体)だけでなく、自然免疫(NK細胞)も活性化させる
ことを意味します。
今回の研究から考えると、
● 免疫低下により“急激にがんが進行する”という説を裏付けるデータは見つからなかった
● むしろNK細胞の働きが強まり、がん細胞の監視機能が高まる可能性がある
という結果になっています。
もちろん、1つの研究で全てが決まるわけではありませんが、少なくとも
「ワクチンが免疫を弱め“ターボがん”を引き起こしている」
という主張を支持する臨床データは現時点ではない
ということが言えます。

・対象人数は多くない
・健康な人のみである
・がん患者や高齢者も対象にした研究が必要
科学は、複数の研究を積み重ねて結論へと近づいていきます。今後、より大規模で長期間のデータが集まれば、さらに確かな議論ができるようになるでしょう。
今回の研究から見えてきたのは次の点です。
正確な情報をもとに冷静に判断することが、過度な不安を避け、自分の健康を守ることにつながります。
最新の研究が発表されれば、引き続きわかりやすく紹介していきます。