抗がん剤よりも効く乳酸菌由来の物質フェリクロームとは?プロバイオティクスの治療への応用

プロバイオティクスと乳酸菌由来物質フェリクロームの可能性

近年、「プロバイオティクス」という言葉を目にする機会が増えてきました。これは、乳酸菌やビフィズス菌といった腸内環境を整える善玉菌の総称であり、私たちの健康と深く関わる存在です。プロバイオティクスは腸の働きを改善し、下痢や便秘を和らげることが知られていますが、それだけではありません。感染症への抵抗力を高めたり、過剰なアレルギー反応を抑えたりと、免疫機能全般に良好な影響を与えることが明らかになっています。

プロバイオティクスが「がんの抑制」に?

プロバイオティクスが「がんの抑制」に?

さらに近年、プロバイオティクスが「がんの抑制」に関与する可能性が注目され始めています。腸内細菌が免疫を調整することで、体内のがん細胞に対する攻撃力が高まるという仮説を裏付ける研究が増えているのです。たとえば、腸内細菌を移植する「糞便移植(FMT)」によって、がん治療の効果が高まることを示す研究結果は、医療界に大きな衝撃を与えました。それほどに、腸内細菌ががん治療に果たす役割は大きいと考えられています。

プロバイオティクスはがん細胞に直接作用する可能性も

プロバイオティクスの働きは免疫調整だけにとどまりません。腸内細菌が産生する物質そのものが、がん細胞に直接作用する可能性も示されています。その代表的な例として注目されているのが、乳酸菌由来の物質「フェリクローム(ferrichrome)」です。

2016年、旭川医科大学の研究チームは、乳酸菌 Lactobacillus casei の培養液から、大腸がん細胞の増殖を抑える活性物質を発見し、フェリクロームとして単離しました。研究成果は、英国の科学誌『Nature Communications』に報告されています。この研究では、試験管内の大腸がん細胞と、マウスの大腸がんモデルを用いてフェリクロームの効果が調べられました。

試験管実験では、フェリクロームが大腸がん細胞の増殖を抑え、アポトーシス(細胞死)を誘導することが確認されました。一方で、正常な腸上皮細胞の増殖には影響を与えなかったと報告されています。またその効果は、一般的な抗がん剤である5-FUやシスプラチンよりも強力であったとされています。さらに動物実験では、フェリクロームがマウスに移植された大腸がんの増殖をほぼ完全に抑えるという結果が得られました。

興味深いことに、この抗がん作用は大腸がんだけでなく、胃がんモデルでも確認されており、フェリクロームが乳酸菌による抗がん作用の一端を担っている可能性が示唆されています。食品にも使われる乳酸菌由来物質であることから、安全性の面でも期待が寄せられています。

私たちが実践できること

私たちが実践できること

もっとも、現時点ではフェリクロームの臨床試験は行われておらず、人での有効性や安全性についてはまだ確立されていません。研究は大きな期待を集めていますが、医療応用には慎重な検討が必要です。

したがって、現段階で私たちが実践できるのは、日々の生活の中で善玉菌を積極的に摂取し、腸内環境を整えることです。乳酸菌は腸内を通過し、最終的には体外に排泄されてしまうため、毎日継続して摂ることが重要とされています。

手軽な方法としては、プレーンヨーグルトにオリゴ糖を加えたものが最適です。プロバイオティクス(善玉菌)と、そのエサとなるプレバイオティクスを同時に摂取できるため、腸内環境の改善に役立ちます。さらに、ベリー類のような抗酸化作用のあるフルーツを添えれば、より健康的な一品となるでしょう。

また、乳酸菌飲料やサプリメントを利用する方法もあります。海外からの並行輸入品を含め、手頃な価格のプロバイオティクス製品も増えており、ライフスタイルに合わせて選べるようになっています。

まとめ

まとめ

腸内環境と全身の健康の関わりは、いまなお研究の進む分野です。しかし、プロバイオティクスが私たちの体にもたらす恩恵は確実に解明されつつあります。フェリクロームに代表される乳酸菌由来物質の研究は、新たな治療法や機能性食品の可能性を広げるものとして、これからの発展が大いに期待されています。