歩く、座る、立ち上がる、方向転換をする——私たちは日常生活のあらゆる場面で股関節を使っています。その中でも、スムーズな動きや体幹の安定に欠かせないのが、股関節の深部にある筋肉たちです。
今回は、その中でも特に重要な「梨状筋(りじょうきん)」という筋肉について、その位置・役割・周囲の構造、さらにはトラブルにつながる“梨状筋症候群”まで、詳しく解説していきます。

股関節は、大腿骨の骨頭(ボールのような丸い部分)と骨盤の受け皿である寛骨臼が組み合わさり、自由度の高い動きを可能にしています。回す・開く・閉じる・伸ばす・曲げる——多方向への動きは、さまざまな筋肉が協調することで生まれます。
● その中でも重要なのが「外旋」
「外旋」とは、太ももを外側へ回す動きのこと。
足先を外へ向ける、片足を後ろに引いて方向転換する、つま先立ちでバランスを取る——こうした動作に欠かせません。
この股関節の外旋に関わる筋肉群を総称し、股関節外旋筋群と呼びます。そのひとつが今回の主役、梨状筋です。
お尻を触ると柔らかく丸い形を感じますが、そのふくらみをつくっている主役は大殿筋です。
梨状筋は、その大殿筋のさらに“深層”、身体の中心に近い位置にあります。
股関節外旋筋群は、上から順番に並んでおり、
という順で配置されています。
この中で最も上部にあるのが梨状筋であり、股関節外旋筋群の“入り口”のような存在です。
梨状筋は、骨盤の中心にある仙骨から始まり、斜め外側へ向かって伸び、大腿骨の外側にある大転子という突起に付着しています。
大転子は、股関節周囲の筋肉が集まって付着する“重要な拠点”です。股を広げる筋、内側に回す筋、外側へ回す筋など、多くの筋が大転子を支点として働いています。
● 梨状筋が働くとどうなるか
梨状筋が収縮すると、仙骨と大腿骨の間が近づき、大腿骨が外側へ回転します。
つまり、
といった機能に大きく貢献しています。

梨状筋が解剖学的に注目される最大の理由のひとつが、坐骨神経との近さです。
坐骨神経は、人体で最も太い神経で、お尻から太ももの裏、そして足先へと伸びています。この坐骨神経は、多くの場合 梨状筋の真下を通過 します。個人差はありますが、中には梨状筋の筋線維の間を貫く形で走る人もいます。
この位置関係こそが、後述する「梨状筋症候群」の鍵となるのです。
梨状筋症候群とは、梨状筋が何らかの原因で緊張し、固くなってしまうことで、その下(または間)を通る坐骨神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こす状態をいいます。
● 症状の例
坐骨神経痛に似た症状が出るため、腰椎の問題と区別が必要なこともあります。
● なぜ梨状筋が悪さをするのか
明確な原因はまだ研究途上とされていますが、以下が関係すると考えられています。
梨状筋が収縮し続けたり、短縮したまま硬くなることで、神経への圧迫が生じると考えられています。
股関節の外旋筋としての役割に加え、坐骨神経との密接な関係を持つ梨状筋は、人体の中でも特に臨床的に注目される筋肉です。
そのため、整体・トレーニング・リハビリでも梨状筋へのアプローチは頻繁に行われます。

梨状筋は、外から見えるわけでも大きく目立つわけでもありません。しかし、股関節の動きを安定させ、坐骨神経と密接に関わることで、身体全体の快適な動作に大きく寄与しています。
その働きを理解することで、
といった疑問が解消され、日常でのケアにも役立ちます。
股関節は身体の“要”ともいえる関節。
その深部で働く梨状筋を知ることは、より健康で軽やかな身体づくりの第一歩となるでしょう。